「お口にあいませんでしたか」

声をかけるとおじさんはあせった。

「あー、いや……」

リア姫を恨んでる人だっけ? でもこの人に嫌みを言われたことないかも。

「これ、持ち帰れないか?すごく美味いから、子供にも食べさせてやりたいなって……」

思わぬ答え目を丸くした。おじさんはしきりに汗を拭きながら
「いや、無理か。難しいよな。うん」
と独り言を言っている。

わたしは、ずいっとおじさんのほうへ身を乗り出した。


「また直ぐに作れます。なんなら今日の夕食のデザートで出しますから、これはおじさんが全部食べてくれると嬉しいです!」

「そ、そうか?」

「ええ! ぜひ!」

あまりのうれしさに、おじさんの手を掴んでぶんぶんと振ると、おじさんは「馬鹿野郎こぼれるじゃねぇか」と照れた。


「簡単につくれるのか?」


カウルがこそっと耳打ちしてくる。彼はわたしが一週間ほどかけて、コツコツと仕込みをしていたのをしっているからだ。


「うん。ミルクを固める寒天っていう素材を作るのは少しだけ時間がかかるけど、寒天の素さえ出来ていればあとは簡単なの」


海辺へ連れて行って貰ったとき、海中でテングサを発見したのだ。
テングサとは、寒天やところてんの材料である。こんなところに素敵な食材が!! と興奮したわたしは、ざぶざぶと海の中に突き進み、カウルに猫のようにつまみ上げられ怒られたのだった。


花を摘み取るように採ったテングサを、天日干しをして乾かしたら、あとは長めにコトコトと煮て布でこすだけだ。

こした寒天は常温でも固まるし、また溶かして加工することができる。
まだ煮出したストックはあるから、今夜の分はミルクを混ぜて固めるだけだ。


「そうか、では城のみんなにも作ってくれるか」

「もちろん! たくさん作るね!」

「やった。また夜に食べられるってよ!」


話を盗み聞きしていたみんなは喜んだ。
畑仕事を共にしている人たちと、調理場の人は以前より仲良くなってきた気がする。

やっぱりおいしい料理は人と人の絆をつなげてくれる。異世界の人もそれは変わらない。

早く城に帰り、300人分を作らなくては。
その作業を想像すると、やりがいがありすぎてワクワクした。