「本当の本当の本当です。わたしは篠塚ゆづかと言います」
カウルは「はぁ、わけがわからない」と髪をぐしゃぐしゃかき混ぜた。
「制裁の直前までは確かにリアだったのに」
「ーーーーたしかに、この世界の記憶はバイクにはりつけにされてたところからだわ」
「お前がゆづかという人物なのは、話していてなんとなく嘘ではないなと感じる。しかし、中身が入れ替わっているなんて、そう簡単には信じられないだろ」
「まぁわたしも、いまだに何が起こっているのかさっぱりなので、理解は出来ます」
「先代が亡くなったのは六年前だ。
リアは元々わがままな性格ではあったが、国益を損なうようなことまでし出したのは二年ほど前からだ。どうやら敵国に心を寄せる男が出来たらしい。
城を抜け出して町で遊んで居るときに出会ったらしいのだが、相手が誰かまでは調べきれてないんだ。どうやっても口を割らなくて。そういった記憶もないのか?」
「ごめんなさい。本当に何も覚えてないの」
「まぁ、服の着方もわからないくらいだしな……」
腕から足まで薬を塗り終わると、最後にぶつけた顎に塗ってくれた。
ミントのような香りがして気分が良くなる。
「信じて助けてくれてありがとう。せっかくチャンスを貰ったわけだし、あなたの顔を潰さないようにがんばらないとね。
ところで、奉仕作業ってどんなことするの? やれって言われたら肉体労働だってがんばるけど、あまり体力に自信はないかな。このリアって子、筋肉無さそうだし」
力こぶでもだしてみようと腕を出すと、細いふにふにの二の腕はふにゃっと曲がっただけだった。
カウルはふっと表情を和らげる。
「本当に、リアと全然ちがうな。姫が何か仕事をするなんてことはなかった」
「だから、ゆづかなんです」
「今までの行いを思い出すと、顔が一緒だから複雑だなんだよ」
カウルは信じがたい、とぼやいた。