いらいらした気持ちを持て余し、机に書類を叩きつける。
足元に数枚の書類が散らばった。この頃の自室は荒れ放題だ。
同じタイミングで部屋に入ってきたロットが、肩をビクッといからせた。
お茶を持ってきてくれたらしい。トレイにのせられたポットが揺れた。脅かしてすまんと謝ると、「いえ、仕方ないっすよ」と物わかりの良い返事が来る。
「カウル。最近お前の顔やばいぞ。最近城のみんなから怖がられているの分かってるだろ。過去に類を見ないほどの近寄りがたいオーラだそうだ」
ロットのすぐ後から、フェンも部屋に入ってきた。
書類の束を持っている。
毎日のように届けられる書類。
ゆづかがクランクに攫われてから一ヶ月、ノーティ・ワンの総力を上げてデリクリエンツ側について調べてさせている報告書だ。
森の中でクランクと対峙したとき、甘い匂いに包まれた。酒を飲んだときのように、思考が鈍り、頭がクラクラとした。抗う事が出来ず、その場にいた全員が意識を飛ばした。目を覚ましたのは、ゆづかとクランクが消え、数時間が経ってからだ。
あれは、なんだったのか。
野営場所に残っていた数人だけは、あの甘い香りから逃れられていたのが救いであった。