帰ってきなさいと言われたら……

 まあちょっと嫌かも、と咲子は思う。

 行正の言動に未だにビクビクしてしまったりもするが。

 三条家が選びに選んだ使用人たちはみな穏やかで有能だし。

 あの家では一応奥様なので、誰に気兼ねすることなく過ごせる。

 洋間の陽だまりのソファなど、気の向いたところで、好きなときにゴロゴロできるし。

 いつでもお友だちを自由に呼べるし。

 若い女中さんたちとは話が合うし、年配の女中さんたちの豆知識も捨てがたい。

 うん。
 特に実家に帰りたくはないな、と咲子は再確認する。

 最初はとんだ蝋人形の館に来てしまったと思ったものだが。

 蝋人形なのは旦那さまだけで、あとの人は生きているので、特に不自由はなかった。