「料理を習っているそうじゃないか」
数日後、咲子は夕食の席で行正に言われた。
……何処から知れたのでしょう。
瓦斯会社のではなく、美世子さんの知り合いのおうちで開かれるお料理教室にしてしまったからでしょうか。
「はい。
緑子さまのおうちで、西洋人のシェフに習っているのですが。
そちらでも、瓦斯でのお料理を教えてくださると言うので」
いきなり作って驚かせたかったんだけどな、とちょっと残念に思う咲子に行正が言う。
「夫が試食に行くこともあるそうじゃないか」
華族や資産家の家の妻や娘ばかりが集まる料理教室なのだが。
たまに夫や家族を招待して、試食してもらうこともあるらしい。
「そうなんですけど。
我々はまだそんな域には達してなくて。
お土産として、持ち帰ったものはあるんですが」
ほう、と行正が少し身を乗り出したように見えた。
『お前の作った料理とやら、見せてみろ』
と心の声が聞こえてくる。