美世子さんちは電話があるから、一緒に行かないか訊いてみよう、と咲子は早速電話する。
通話料は高いが、電話の便利さはすでに浸透していて。
電話を家や会社に設置したい人は増えていた。
だが、未だ需要に供給が追いついていない状態なので、電話がある家は少なかった。
ちなみに文子の家に電話がないのは、単に、文子の祖父が、
「電話なんて便利なものがあると、ゆっくりしたいときにも、いろいろ仕事の話が入ってきて面倒だから」
と主張しているからだ。
咲子は居間の窓際に置かれたソファに座ると、電話番号簿で美世子の家の電話番号を探す。
横のテーブルにある卓上電話機のハンドルを回し、電話局の交換手に美世子の家の番号を告げた。
荻原家で電話をとった女中さんが、すぐに美世子を呼んでくれる。
「お料理教室?
いいじゃない。
行きましょうよ」
暇を持て余しているらしい美世子はかなり乗り気だった。