次の日の朝、咲子が起きると、行正はいなかった。
自室で眠ったのかな? と思っていると、やってきて、咲子に昨夜の本を返してくる。
「お前のお薦めの本。
歯を食いしばって読んだぞ」
……いやあの、そこまでして読んでくださらなくても結構なんですけど、と苦笑いしながら、咲子はそれを受け取る。
自分の愛読書は、彼にはつまらない本だったようだが。
夜中起き出して自室に行き、わざわざ読んでくれるだなんて。
私のことを理解してくれようとしている気がして、ちょっと嬉しいな、と咲子は思った。
まあ、行正からは、
『いくら莫迦嫁とは言え、嫁。
少しは歩み寄らないとな』
という心の声が聞こえていたのだが。
――でも、少し嬉しかった。