人の愛読書を読むとその人のことが理解できるとかいうので、咲子の愛読書を読んでみたが、不安になっただけだった――。

 そんなことを考えながら、行正は玄関ホールに向かい歩いていった。

 清六だけでも不安なのに、清六以上の色男を家に招き入れるとは何事だ。

 咲子は、まだ悩んでいるような顔で女中たちと後ろからついて来る。

 いつものように見送りに出てくれるのだろう。

 ちょっと、ぼーっとしたところもあるし、訳のわからないことを言い出して、得体の知れないときもあるが、愛らしい妻だ。

 上官が持ってきたのは、断れるはずもない見合いだった。