そして父は風景の写真集を見せてくれた。その中の一枚にあかねは目を奪われた。それは朝日が雲の上に顔を現す瞬間の、美しい光景だった。

「あたしも大きくなったら絶対、この写真みたいない雲の上の朝日を見るからっ!」

 あかねはそう宣言したのをおぼろげながら覚えていた。だから雲の上の朝日を見たい、といいだしたのだ。



 群青が濃い西の空へ向かって飛んでゆくふたり。あかねは声を大きくしてスマートウオッチに呼びかける。

「これからどこへ行くの?」

「雲取山、その頂《いただき》さ。東京にある中で一番高い山だよ」

 しおんはニッと笑うと、さらにプロペラの音が強まり頬を切る風が鋭くなる。ブランコプターのスピードもどんどん上がっていく。

「もたもたしてると日が暮れちゃうからさ、じゃなかった、日が昇っちゃうからさ」

「ねぇ、どれくらいで着くのよ」

「このスピードならあと三十分弱、我慢できる?」

「ううん、大丈夫。慣れてきたから気持ちいい」

 しおんの後に続いて眼下に広がる町並みを一望する。怖さにもやっと慣れてきた。