……そうだ、お父さんと見たあの時の夕日がいいな。

 そして目を閉じ、その光景を思い出す。地平線に沈むゆく太陽とあかね色の空を記憶の中に描く。

 それからしばらくすると、しおんは「目を開けてごらん」という。そしてあかねはそっとまぶたを開く。
 
 その目の前の光景にあかねは息を飲んだ。

「し、しおんくん、空が……」

 目を閉じるまでスカイブルー一色だったはずの天空が、いつの間にか鮮やかなオレンジ色とブルーのグラデーションを描いていたのだ。西の空から伸びるオレンジが東の空に向かって青く色合いを移してゆく。

 振り向くとそのオレンジの光は背後から差し込んでいた。振り向いて目にした風景のその眩《まばゆ》さに、髪の毛の先から足の先まで鳥肌が立った。

 西に望む雲取山の頂には、信じられないくらい大きくて、ゆらゆらと煌めく夕日があった。地上を満たす冷たい大気が夕日の辺縁を震わせている。

 そして東の空にはあの時見た、眩しい朝日が天使の椅子を空に描いていた。

「ねえ、しおんくん……これいったい、どういうことなのよ……」