幾度となく残酷な復讐劇を目の当たりにしてきた東堂は肝が据わっている。髪の毛から爪先までのどこにも悲観的な匂いを漂わせることはなかった。満員御礼の観客席とカメラに向かって笑顔を絶やすことはない。

「それでは、今日のゲストのおふたりに登場していただきましょう!」

 ダダダダダン、とドラムの音が鳴り響く。テレビで見るのと違って空気の震えが舞台裏で待つあかねにも響いてきた。

「まずは被害者となってしまった女性末広 あかねさんです! 本人の希望により被害内容は明らかになっておりませんが、実名、顔出しでの登場です。彼女の勇気に拍手をお願いします!」

 あかねは舞台の上に歩み出る。すると会場からいっせいに拍手が湧き起こる。数多の視線があかねをとらえる。瞳の数は『誓いの鐘イベント』よりはるかに多い。

 けれどもあかねはその勘違いの拍手を風に揺れる木々のざわめきのように感じていた。あの時のような緊張感は、もはやない。

 ……皆がどう思っていても構わない。あたしはあたしができることをするまでだ。