「ちょ……ちょっと……!?」
「なあ、何か気付かないか?」
そんなレティシアの様子に気付いているのかいないのか、ずいっと顔を寄せてきたエルヴェが囁くように言う。その呼気に感じるミントの風味は、彼の好みに合わせて出したミントティーのものだろう。そんな香りに気がつくほど接近していると気付いて、レティシアの心臓が一気に跳ねた。どくんどくん、と大きな音が耳の奥からして、めまいがしそうになる。
「わ、わから……ない……わ……」
「ほら、これ……見て、レティ」
息も絶え絶えなレティシアに小さく笑う声だけ残して、エルヴェはぱっと身体を離した。それから、何かを誇示するように両肩に手を添え、胸を張ってみせる。
急な解放に一息つくと、レティシアは彼の声に誘われるようにしてその姿をまじまじと見つめた。
そういえば、騎士服姿でオービニエ邸にやってくるのは珍しい。白い騎士服は真新しく、その胸に輝く金の聖徽章は……。
「え、エルヴェ……あなた」
「そう、聖騎士候補になったんだ」
聖騎士、というのは一年に一度選抜試験がおこなわれる、この国における騎士の最高位だ。文武どちらにも秀でた騎士に贈られる名誉ある称号で、騎士ならば誰もが最終的にはそこを目指すという。
しかし、この若さで候補になるというのは大変に珍しい。
——努力しているものね……。
彼のことは気に入らない部分も多々あれど、努力していることだけは疑いようもない。幼い頃泣き虫だった男の子が立派になって……と、レティシアも胸がいっぱいになった。きっと彼の目標というのはこの聖騎士になることなのだろう。
「なあ、何か気付かないか?」
そんなレティシアの様子に気付いているのかいないのか、ずいっと顔を寄せてきたエルヴェが囁くように言う。その呼気に感じるミントの風味は、彼の好みに合わせて出したミントティーのものだろう。そんな香りに気がつくほど接近していると気付いて、レティシアの心臓が一気に跳ねた。どくんどくん、と大きな音が耳の奥からして、めまいがしそうになる。
「わ、わから……ない……わ……」
「ほら、これ……見て、レティ」
息も絶え絶えなレティシアに小さく笑う声だけ残して、エルヴェはぱっと身体を離した。それから、何かを誇示するように両肩に手を添え、胸を張ってみせる。
急な解放に一息つくと、レティシアは彼の声に誘われるようにしてその姿をまじまじと見つめた。
そういえば、騎士服姿でオービニエ邸にやってくるのは珍しい。白い騎士服は真新しく、その胸に輝く金の聖徽章は……。
「え、エルヴェ……あなた」
「そう、聖騎士候補になったんだ」
聖騎士、というのは一年に一度選抜試験がおこなわれる、この国における騎士の最高位だ。文武どちらにも秀でた騎士に贈られる名誉ある称号で、騎士ならば誰もが最終的にはそこを目指すという。
しかし、この若さで候補になるというのは大変に珍しい。
——努力しているものね……。
彼のことは気に入らない部分も多々あれど、努力していることだけは疑いようもない。幼い頃泣き虫だった男の子が立派になって……と、レティシアも胸がいっぱいになった。きっと彼の目標というのはこの聖騎士になることなのだろう。