「……失礼な男ね、相変わらず」
「まあ、いいから座りなよ」

 この場合、失礼なのはレティシアの方である。だが、エルヴェはそんなことは気にした様子も見せず、席を立つとレティシアのために椅子を引いた。その優雅な仕草に、またしても腹の底にもやもやしたものが生まれてくる。
 最近、いつもこうだ。レティシアは心の中で小さくため息をついた。
 エルヴェがこういう、女性慣れした態度を見せるのが気に入らない。たかだか五年早く社交界に出入りするようになっただけのくせに、気取っちゃって。
 それが様になっているから、なんだかどきどきするだなんて——そんなことは、絶対にないのだ。
 小さく首を振ると、レティシアはつんと顎を逸らせて口を開いた。

「それで、今日は何のご用なの」
「冷たいことを言うなぁ……僕ときみの仲だろう?」
「……妙な言い方をしないでちょうだい。そういう態度だから……誤解されるのに」

 そうだ。レティシアに求婚者の一人もいないのは、彼のこうした態度も原因だと思う。
 最近の彼は、まるでレティシアに気のあるような態度をとるのだ。しょっちゅうオービニエ家を訪れたり(ただ、兄や父に会うだけで帰る日も多いのだが)、夜会では父に頼まれたのかエスコート役を買って出てくる。そうして、レティシアの傍から離れようとしないのだ。