いよいよだと思うと手が震える。そっとヴェールに手をかけると、レティシアが小さく息を呑むのが聞こえた。
 逸る気持ちを抑え、ゆっくりとヴェールをあげる。魅惑的な口元に、愛嬌のあるかわいらしい鼻。それから、意志の強そうなくっきりとした青い瞳が順に現れる。
 そこには、エルヴェの女神がいた。

「レティ……綺麗だ……」

 思わず、そんな言葉が口から零れた。いや、いつだってレティシアは可愛い少女で、美しい女性だったが、今の彼女は記憶にあるどんな時よりも、ずっと可憐で煌めいて見えた。
 壊れ物に触れるかのように、そっとその頬に手を添える。愛らしいバラのつぼみのような唇にそっと触れると、これまでに交わしたどの口付けよりも甘い味がした。
 唇を離すと、潤んだ瞳のレティシアがこちらを見上げている。そのあまりの愛らしさに、背筋が震えた。

「もうこのまま、家に帰ろう」
「……何を言ってるの」

 半ば本気だったのだが、その言葉を聞いたレティシアが半眼になってエルヴェを軽く睨み付ける。いつだったかのことを思い出して、エルヴェは笑うと、もう一度その頬に口付けをした。