そして今——場所は再びのオービニエ邸。庭に設えられたあのテラス席で、レティシアはエルヴェと向かい合っていた。
 正面に座ったエルヴェは上機嫌そのもの。真新しい白い騎士服に、今度は聖騎士の徽章を付けている。それを見せびらかしに来ただけで済めば良かったのだが、そうは問屋が卸さなかった。
 机に置かれた手を、そっと上から覆うようにして握りしめたエルヴェが、顔を寄せて囁いてくる。

「これで、結婚してくれるね?」
「い、いえ……ちょっと待って、わ、私は考えるって言ったのよ」
「そう、オービニエ家の娘としての誇りにかけて、ね」

 そう言うと、エルヴェはにんまりと笑って見せた。

「ね、いい加減素直になりなよ……レティシア、僕のことが好きでしょう?」
「なっ……ば、なっ……!?」
「僕は、きみが好きだよ、レティ。ううん……そんなのじゃ足りない、愛してるんだ」
「は、えっ……え?」

 気付けば、エルヴェは既に席を立っている。テーブルを半周回ってレティシアの隣に立った彼は、机に手を突くとその身体を傾けた。
 見上げた顔に影が差し、ゆっくりと彼が近づいてくる。避けようと思えば避けれるはずだし、以前と同じように手で防ごうと思えば防げたはず。
 だが、レティシアは何かに魅入られたようにそのまま、彼の唇を受け入れた。