「こんばんは、月の綺麗な夜ですね」

街灯もなくあるのは月明かりのみ、そこに薄暗い中に一人の少女が月を眺めながら立っていた。

・・・本当にいた。

でも見るからに人間だ、幽霊なんかじゃない。足もあるし言葉も喋る。

その少女はおもむろに近づいてきたと思えば笑顔で挨拶してくる。

こいつには警戒心や恐怖心はないのか?

「こんな時間に女の子一人でいたら危ねぇんじゃないか?」

「大丈夫だよ、だってここにはめったに人は来ないから」

人が来ないと言いつつも現に俺みたいのがここに来ているんだが・・・。

「ここに誰か来たのなんて数ヶ月ぶりだよ?君はこんなところに何の用があったの?」

幽霊を見に来たなんて・・・さすがに言えないよな。
幼馴染の梨乃に怖い話をしてやりたいからここに来たなんてな。

「ふふふ、ここには幽霊さんなんていないですよ?いるのは私だけですから、私が幽霊さんに見えるなら話は別ですけどね」

この子は噂を知っていてからかっているのか?
それとも・・・。

「私はね、人の心がわかるの。初対面の君だって思っていることくらいちゃんとわかるんだよ?怖いでしょ?人の心がわかるなんて気持ち悪いでしょ?」

「・・・」

どこまで本気で言っているのだろうか。

「人気のない場所に少女が一人。幽霊さんじゃないけど人の心がわかる女の子がいたらさすがに怖いよね?怖いと思ったなら、・・・不気味と感じたのなら興味本位でもうここには近づかないこと、いいね?」

明らかに俺より年下の少女は夜空の月を見上げながら笑顔で言う。

「皆、お前のことを怖がっていたのか?興味本位でやってきたやつらは皆お前のことを気持ち悪がったのか」

「・・・そうですね、町では変な噂になっているのは知っているから興味本位、肝試し感覚でやってくる人もいたよ?幽霊じゃなかったとがっかりする人もいたし思っていることを言い当てると気味悪がって帰っていく人もいたよ」

「俺も・・・、俺も本音を言えば幽霊じゃないとわかって少しがっかりしている。幼馴染の梨乃への土産話もなくなったわけだからな」

「幼馴染さん、ね。仲が良いのはけっこうだけど相手が嫌がるような話を探そうとするのは感心しないかな?」

「仲が良いという言葉には語弊があるがあいつからは自覚ないだけでだいぶ迷惑を受けているからな。ときどき仕返ししてやりたいのさ、それだけだ」

「・・・そう」

幼馴染や仲が良いという言葉を発した時、ほんの少しだけ笑顔に陰りが見えた・・・そんな気がした。

「じゃあ俺はもう帰るけど、お前は」

このままここにいるのか?と聞こうとしたら、

「・・・梨夜、私はお前じゃなくて椿梨夜という名前があるんだけど。私は・・・気が向いた時に帰るだけ」

「まぁ俺はあまり他人に干渉しない方だけどあまり遅くまで出歩いていると補導されるぞ」

「・・・補導とかって慣れっこだから」

「この不良少女め」