「遅くなりましたがただいま戻りました。先輩、、梨夜さんに変なことを吹き込んでなかったでしょうね」

「詩依、人を疑うのは良くないと思うよ」

「羽藤さんにあることないことを吹き込んだ前科があるのですが、まずそちらの弁明を願えますでしょうか?」

「あ・・あれは不可抗力というか話の流れというか・・・」

「まぁいいでしょう」

2人のやりとり聞いているとふいに廊下側のドアが開いた。

「やっほー、久しぶりに遊びに来たよ・・・・・・ってあれ?知らない人もいるね」

唐突にドアが開かれ知らない人が入ってきました。

「げっ・・・先々代、いらっしゃるのなら事前に一言だけでもお知らせくださいませ」

「うん?春日に連絡は入れてたよ、既読つかなかったけど」

「え?ちょっと待ってくださいね、今確認するから・・・・・・あ、やべっ・・・」

「先輩?・・・はぁ~、まぁいいでしょう」

「ところで三枝君?君、今、一瞬げって言ってたよね?僕は耳が良いから聞こえてしまったのだけど、どういうことか説明してもらってもいいかな?」

「え~と、その~ですね、これには深い深い、マリアナ海溝と同じくらい深い理由がございまして・・・、お話をするととても長い時間がかかってしまいますし・・・。先々代もお忙しいでしょうからそのような多忙なお方の時間を奪うなんてわたくしにはとてもとても・・・」

「僕の多忙さを考慮してくれるのは嬉しいけれど、僕のことは気にしなくても大丈夫だよ」

「先代、あまり詩依をいじめないであげてください」

「ごめんごめん、可愛い後輩はついいじめたくなってしまうんだよ、平も気持ちはわかるだろ?」

「わかりはしますがでも詩依も困っておりますし」

「・・・えっと・・・その・・・そちらの方は?」

「あ、失礼しました。梨夜さんははじめましてですね、こちらは先々代の風紀委員長です。この学園の風紀委員会の地位をここまで高めてくださった功績者です。ですので粗相のないようにお願いいたします」

「椿、梨夜です・・・、詩依さんや先輩からお勉強を・・・教えてもらってます。・・・よろしくお願いいたします」

「そんなにかしこまられるとやりづらいんだけど・・・、まあいっかよろしくね」

「あぁ先代、梨夜君はかしこまっているというより、人見知りがすごいだけだから気にしなくて大丈夫ですよ」

「あぁ人見知りかぁ。たしかに歳が離れてそうだから緊張してしまうのは仕方ないことだね。で、椿君は今中学1年生くらいなのかな?」

「え・・・私は今・・・中学3年生で・・・受験生です」

「あ・・・これは失敬、すまなかった」

「いえ・・・気にしてませんから・・・」

「平、この子、なんとなく学園に入って来た頃の詩依に似ているね。小ささとか初々しさとか」

「やはり先代もわかりますか?詩依はもうすれてしまったけれど、梨夜君はまだまだ可愛げがあって将来有望だと思うのですよ」

「ちょっと先輩!わたくしがすれているとか可愛げがないとかどういうことですか。だいたい先輩がもっとしっかりしてくださっていればわたくしもこんなに苦労することもなかったのに酷い言い草です」

「で、先代はいったい何をしに来られたのですか?まさか詩依や私をからかいに来たわけではないでしょう」

「あぁ、三枝君の入れたお茶を飲みにね。三枝君の入れるお茶は僕にとってのたまにしか出来ない贅沢だからね」

「そう言っていただけることを嬉しく思います、ではさっそく準備をいたしますので先々代はそちらの席でお待ちくださいませ」

そう言うとそそくさと紅茶の用意をのため席を外してしまう詩依さん。
詩依さんは本当に先々代委員長さんのことが苦手みたい。

「最近の風紀委員会はどうなんだい?見たところ平以外いないみたいだけど?」

「詩依のお眼鏡にかなう人材はいないようです。私の代よりはぎすぎすしてないとはいえ委員長の座を狙っているやつも少なからずいるから、詩依は警戒してそばに置こうとしないのでしょう」

「いつかこのわだかまりも癒えればいいんだけどまぁ難しいよね。この爪痕を残してしまったことだけは僕も申し訳ないと思っている」

「私個人の考えでは詩依の後任は梨夜君がいいと思っているのですが、人を見る目がある先代のお考えをぜひお聞きしたいと思ってます」

「人を見る目があるとか買いかぶらないでくれないか。僕からすれば・・・そうだね、三枝君がいいと言えばいいんじゃないかな?平ももうじき卒業だし三枝君の支えになってくれる存在は必要だと思うよ。風紀委員長ってのは1人じゃ荷が重いからね。三枝君が委員長を続けられてきたのは平のサポートがあったからだと思うし」

「あの・・・私はたしかにこの学園を受験しますが・・・さきほど詩依さんから・・・怒られてしまってます」

「おやおや、三枝君が怒るなんてな、何があったんだい?」

先輩が先ほどのことを説明する。詩依さんが私に期待しつつも、この世界に巻き込んでよいか迷っていることも。

「僕から見ても三枝君は君のことをある程度信頼していると思う。たとえ約束とは言えこの会議室にいることを許可しているわけだしね。それだけでもそこらにいる風紀委員よりよっぽど信頼されていると思うよ」

「詩依は警戒心が強くて自分を偽ってまで委員長をやっているから中身はもろい。誰か支えになってくれる存在は必要なんだよ。私も卒業後はOGとしてちょくちょく様子を見に来ようとは思っているけどそんなに頻繁に来れるとは限らないし。詩依と梨夜君ならうまくやっていける気がする」


「私が・・・支えになんて・・・なるのですか」

「詩依が委員長の座を譲れば詩依は普通の女の子に戻れる。と言っても今まで委員長としてやってきたしがらみがあるからすべてとは言えないが」

「もし詩依さんが・・・普通の女の子に戻ったとしたら・・・私は・・・」

「そこは安心してほしい、詩依は私や先代より責任感が強い。もし詩依が梨夜君を推薦した場合少なくても詩依が卒業まではしっかり面倒を見てくれる、そこは私が保障するよ」

「そ・・・そんな・・・私はまだ・・・この学園に入れるかも・・・わかりません・・・」

「おやおや君は平から勉強を教わっているというのにずいぶんと弱気じゃないかい?平は僕を支えてきてくれた人物だ。成績優秀、頭の回転も速い、常に他人の立場に立てる人物だ、性格は・・・まぁ察してほしいところだけど」

「先代、性格はって何ですか?私ほどの淑女はそうそういませんよ」

「平、君は一回淑女という言葉を辞書で引いてみた方がいいんじゃないか?」

先輩は先々代委員長さんに対して常に敬語ですが、言葉のやり取りの親しさからお互いを認めているご様子。