「皆様、お集まりいただきまことにありがとうございます。風紀委員会委員長三枝詩依でございます。今回は今期の活動記録について報告いたします。まずはこちらのスクリーンをご覧ください」

内容は一ヶ月に1回の全校集会で提案してきたことのフィードバック。
凛として壇上に立つ姿は学園トップの権力者の肩書きに恥じない姿。

内容は難しくよくわからなかったものの終始凛とした態度で手や腕を振りながら、緩急もつけられており、30分という時間はあっという間に過ぎていきました。


・・
・・・

「いやぁ、内容はよくわからなかったな」

「りっちゃんが寝なかっただけでも奇跡だけど、ちゃんと政策のフィードバックもしていたし今後の課題も提示してくれていたんだよ」

「・・・詩依さん・・・格好良かったです」

「そうだな、鬼姫様は学園トップの権力者だし。権力者の名に恥じない演説だったな」

「1年前のりっちゃんの演説もすごかったけどね。たしかあの時は反省文書かされて大変だったみたいだけど」

「その話はやめろ梨乃!あれは忘れたい記憶なんだよ」


・・
・・・

ピンポーンパンポーン。

「こちらは風紀委員会委員長三枝詩依です。本日のご来場まことにありがとうございます。本日の17時をもって白鷺学園学園祭が終了となります。まだお時間はございますので終了時刻になりますまでごゆっくりお過ごしくださいませ」

「あ、もうこんな時間か。最後は屋上に行こうぜ」

「屋上・・・ですか?何か・・・あるのですか」

「何もねえよ、ただ普段は施錠されているから入ることが出来ないんだ。屋上が開放されるのは珍しいから見に行こうぜ」

「はい・・・」

「屋上に行くのなんてどれくらいぶりだろう?美術の授業で行った以来かな?普段行けない場所に行くのはわくわくするよね?」


・・
・・・

屋上には何もなかったけれど太陽が良く見えます。

「まだ夕焼けの時間には少しだけ早かったな」

「夕焼け・・・見に来たのですか?」

「そうだぞ、学園の屋上で見る夕焼けはそれはそれは綺麗なんだ。ここは滅多に開錠されないしな。梨乃も見ておけよ、長年の勘で今日の夕焼けは良さそうだからな」

数十分だらだらとお話をしながら夕焼けを待つ。私のお気に入りの場所では月はいつでも出ていて待つものではなかった。ゆっくりと過ぎる時間、まるでお祭りが終わっていく寂しさに似た感じを受ける。


「そう言えばさ、梨夜はなんでうちを受験するんだ?うちは中高一貫だし内申関係ない私立なんて他にもあっただろう?」

「理由・・・ですか?柳也さんたちと一緒の・・・学園生活を送りたいから。たとえそれが・・・1年だけでも・・・」

「なんだそれ?本気で言っているのか?」

「私は・・・本気です。選択肢がなくて・・・仕方なく選んだわけでは・・・ありません」

「良いんじゃないかな?私は素敵な志望動機だと思うよ。杏だっておんなじ理由でこの学園に編入してきたわけだしね。誰かと一緒に学園生活を送りたい。うんうん、良いと思うよ」

「・・・ありがとう・・・ございます」

「まぁたしかに杏のことは忘れていたけど、あいつも梨夜と同じような理由だったな。編入組のやつらの志望動機なんてみんな同じなのかもな」


・・
・・・

「まだ完全な夕焼けじゃないけれど今日の夕焼け、綺麗だろ?」

「うんうん、りっちゃんの言うとおり綺麗だね」

「・・・ゎぁ」

よく映える夕焼け、一日の終わりを告げる夕焼けに思わず見とれていた。

言葉に出来ないこの光景にただただ見とれていました。

「今日の夕焼けは70点くらいかな?租点は65点、みんなで見たというところで5点の加点、合計で70点といったところだろうな」

「りっちゃん、さすがに70点は辛口すぎじゃないかな?」

「俺は夕焼けにはうるさいんだ、70点でもかなり高得点だぞ」

「あと・・・30点も点数を残すのですね」

「おう、いつか見るであろう90点超えの夕焼けのために30点分残しておくんだよ。そんな夕焼けをみんなで見たいもんだな」

「そんな夕焼けを・・・見られるでしょうか」

「さあな、でもいつかは見てみたいと思う。未来のことは誰にもわからないが思うこと、願うだけなら自由だからな」


素敵な夕焼け。

今日よりさらに素敵な夕焼けをいつか見られることを私も願ってます。


「なあ梨夜、前に俺が言ったこと覚えているか?梨夜が奇跡がどうとか言った話だが」

「あ・・・はい」

「誰かと一緒の時間を過ごすことは奇跡なんてもんじゃないんだよ。願えば叶っちまうほどちんけな願いなんだよ。梨夜がいた世界では尊いものだったかもしれないが新しい世界ではありふれた日常にも等しい出来事なんだ、叶っただろ?」

「・・・はい」

「叶っただけでは終わらない、これからも続いていくんだ。俺はこの夕日に誓ってやる、だからお前もこの新しい世界を楽しめよ」

「・・・はい!」




・・
・・・

「本日は白鷺学園高等部の学園祭にお越しいただきまことにありがとうございます。当学園祭はあと10分少々で終了の時刻となりました。ご来場の皆様がたはお忘れ物のなきようよろしくお願いいたします」

学園祭終了のアナウンスが流れ楽しかった時間は終わりを迎えます。
楽しい時間もいずれは終わりを迎える。切なくなる。

「梨夜、お前はなにしんみりしてるんだよ?学園祭が終わるのがそんなに切ないのか?」

「・・・え?そんなに私・・・顔に出てましたか?」

「ああ、ばっちりな。梨夜のように人の心がわかるわけじゃないけれどそこまではっきりと顔に出されたらさすがにな。また来年もあるんだからお前がこの学園に編入すればまた来れるだろ?次もある、これで終わりじゃないんだからな。来年の学園祭は柚明や杏も誘ってまたぱーっと遊ぼうぜ」

「・・・」

次がある、次も一緒にいてもいい。その言葉が嬉しくて・・・あたたかくて。

「おい、なんで泣いてるんだよ」

「あぁ~りっちゃんが梨夜ちゃんを泣かせた!女の子を泣かせるなんてひどいんだ~」

「梨乃、お前明らかに俺をからかってるだろ。今はからかっていい場面じゃないだろうが」

お二方のやり取りを涙越しに眺めながら。

零れ落ちる涙の意味を考えながら。

嬉しいときも涙は流れること、何度何度も泣いて来たけれど嬉しいときも泣けるのだということを再確認しました。