梨乃さんが完全に怯えきってしまっているから気分転換として3年生の甘味処に行くことした。
「梨乃、あれは俺たちの見間違いか何かだから気にするな」
「りっちゃんだけじゃなくて梨夜ちゃんも見たんでしょ?気にするなって言われても無理だよ!せっかくお化け屋敷に入らなくてよかったのにこんなのあんまりだよ」
「梨乃さん・・・落ち着いて」
「こんなの落ち着いていられないよ、自分たちの教室で心霊現象なんて絶対に無理だよ」
「梨乃、甘味処についたら奢ってやるから、な」
「3年生の甘味処なんてきっと混んでるよ」
ナーバスになる梨乃さん。
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3年生の階に着く。3年生の出し物と言えば人気で待ち時間も相当なものと覚悟していたものの思っていたより待たずに入れてしまった。
「おや、羽藤君と・・・咲麗嬢、それに梨夜君じゃないか、よく来たね」
「あ・・・先輩、ここって・・・先輩の教室だったのですか?」
「そうだよ梨夜君。どうだいお姉さんの和服姿も似合っているだろ」
先輩は紫とピンクを基調とした袴つきの和服。
「羽藤君も口数が少ないけれど私の和服姿に惚れてしまったのかい?」
まるでこの教室が先輩の教室であることを知らなくて面食らっている様子の柳也さん。
「にしても3年生の出し物にしては空いてませんか?」
「あぁ、たぶん1年生のメイド喫茶にお客さんをもっていかれているのかもね。1年にはたしか去年、ミス・シラサギ中等部の部を受賞した女子生徒がいるからな」
「そういえば3年生だけメイド喫茶ってありませんでしたね」
「あぁ私たちはメイドという年齢でもないし、誰もやりたがらなかったからね。だったら3年生は和服で勝負しようとなったわけ」
そうこうして教室に案内される。
シンプルなお茶屋さんというイメージ。ごちゃごちゃしておらず最小限の装飾品。シンプルイズベストと体現したスペースとなっているようです。
「3人は全員甘味セットでいいかな?」
「お任せします、梨乃や梨夜もそれでいいよな」
梨乃さんと一緒に軽くうなずく。
「こんな和服姿が見られるのにお客さんの入り悪いのですか?」
「学生にとっては和服よりメイドの方が人気なのだよ。詩依が率いる風紀委員会も1学年に1クラスの割合でメイド喫茶の出店を許可している。3学年で1クラスだけになんてしたら長蛇の列になるでしょう、分散させるという意味でも1学年に1クラスの割合で許可を出しているというのに先輩はあえて甘味処なんて・・・とぼやいてもいたな」
「おーい、たいら、いくら暇だからと言ってもサボるなよ」
「・・・たいら?だと。おい、私のことをたいらと言ったのは誰だ!私はたいらのだ、何年この学園にいるんだ!」
「ぉぃ・・・、なんかいつも温厚な先輩の様子がおかしくないか?」
柳也さんが戸惑う。
「あちゃ~、ま~た始まっちゃったかぁ。君たちは2年生だよね?後輩ちゃんたちには先輩の威厳もあるからあんまり見られたくなかったけどうちのクラスでは日常的に行われていることだから気にしないでね」
優しそうな先輩がこちらにやってきて状況を説明してくれる。平先輩は大きな声で明らかに怒っている。たいらと言った先輩も引かない。だけど誰も止めようとしないし慌てる様子もない。本当に日常的に行われているやり取りなのだろうと思う。
「さすがにとめてくるから待っててね、ちょっと春日!毎年のことだけど下級生も見に来ているんだから大人しくしなさい!」
「だってよぉ、私はたいらのなんだよ!平家一門の由緒ある血筋に対して無礼千万だろうが」
「うるさい、うるさい!問題を起こすなら風紀委員長を呼ぶよ!」
「ちょ、それはだめだ!詩依の小言は本当に長いんだからやめてくれ。ただでさえ忙しいのにそんなくだらないことでわたくしの時間を奪わないでくださいと怒られるから」
「だったら接客に専念しなさい!」
「・・・はい」
しょんぼりする先輩と元風紀委員会委員長という役職をものともしない物腰の先輩もすごい。
それに詩依さんの権力というよりも詩依さんのお説教タイムの怖さが垣間見えるやり取り。
「はい、甘味セット3つ、お待たせ。お茶は熱いから気をつけて飲んでくれたまえ」
「あの・・・飲み方のマナーとかって・・・あるのですか?」
「あぁ、そんなものはないよ。確かに形式とかはあるにはあるけれど美味しいものを美味しくいただく、これが作り手に対してへの本当のマナーだからね。ちなみにお茶と和菓子を作ってるやつは茶道部のやつだから味は保障するよ」
「りっちゃん、これすごく美味しいよ」
「さっきまで怯えていたのにまったく現金なやつだな」
「甘いものは心と身体の栄養だよ」
「咲麗嬢の言うとおり心に栄養は大切だ。雑談に花を咲かせればさらなりだ」