いつもの時間にいつもの場所。
最近は本当に忙しい。学校に行き始めて、放課後は勉強会のために白鷺学園にお邪魔して一日の終わりにここに来る。
でも今日は曇っていて月が見えない。
「今日は月が見えないな。でも見えないだけで雲の上には月がある。その月を想像するのもおつなもんだぞ」
「あ、柳也さん・・・こんばんは」
最近はよく来てくださっている。
「月の見えない日でもここに来るんだな、ひょっとして雨の日でもここに来ているのか?」
「曇っていても・・・お気に入りの場所であることには変わりませんから。雨の日は・・・気分によります」
「そうか・・・」
しばらく無言の時間が続く。
同じ時間に同じ場所にいること、時間と空間を共有するということ、ずっと1人で生きてきた私にとっては尊い時間。
この場所に限っては無言が気まずいとは思わない。
お月様は出ていないけれどお月様の姿を想像し2人で空を見上げる時間。
同じ空を見上げるという行為はかけがえないの時間だと思える。
「そういえばそろそろうちの学園で学園祭があるんだけれどお前も来るか?」
学園祭?そういえば詩依さんがぼそっとつぶやいていたことを思い出す。
学園祭の資料に目をと通さなくてはいけないから今日も勉強を教えることは出来ませんと言っていた。
そうか・・・そろそろ学園祭の時期なのかと。
「私は・・・白鷺学園の生徒ではありません」
「学園祭というのは一般公開をしているんだよ。生徒や関係者じゃなくてもその日は入れるんだよ。梨夜は普段から学園に出入りしているから実感がないだろうけど、外部の者が学園に入れるのは本来その日だけなんだ。まぁ普段から鬼姫様のご好意で学園に出入りしているから今さらという気もしなくもないが」
「行っても良いのですが・・・1人で学園を見て回るのはちょっと・・・」
「そこは大丈夫だ。俺が一緒に回ってやるよ、まぁ鬼姫様や先輩じゃないのは不服かもしれないけれどお二方は忙しいからな」
「一緒に・・・ですか」
「やっぱり俺とじゃ不満か?」
首をぶんぶんと横に振る。私なんかと一緒に学園祭を見てくれるなんてそんな嬉しいことはない。
長年、地域のお祭りでさえ一緒に行ってくれる人はいなかったから。
「じゃあ決まりだな。一般公開は学園祭2日目だから忘れず来いよ、来なかったら俺が鬼姫様に怒られるんだからな」
柳也さんの照れ隠しにも慣れてきました。
一言多いのは照れ隠しの証拠。
そして詩依さんの優しさにも胸が熱くなりました。
当日はお忙しいながらも積極的に私を誘ってくださったご好意に胸が熱くなりました。
「でも梨乃さんや杏さんのことはよろしいのでしょうか?そんな大事な時に放っておくのは・・・」
「杏は生徒会だから忙しいんだ。生徒会は学園祭実行委員の一員でもあるからな。梨乃は梨乃で文芸部にでも入り浸っていると思うから大丈夫だ。なんならそいつらと一緒に見て回るか?梨乃なら喜んでくれると思うぞ、すっかりお前のこと気に入っているからな」
「ぜひ・・・お願いいたします」
「決まりだな」
どんどん夢が叶っていく。
柳也さんは私が願っていた以上の素敵な夢を叶えてくれる。
こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに。
もしもこんな幸せな時間が突然終わりを告げたとしたらと思うと怖くなります。
どうかこの幸せな時間がずっとずっと続きますように。