今日は柳也さんの幼馴染さんがここに来るらしい。
知らない人、ほんの少し心細い。
柳也さんから話を聞いてはいて悪い人ではなさそうだけど・・・少し不安。
そう思っていると遠くに人影が見えた。
人の心を読む。
普段は抑えている力、警戒心が強い私の防衛能力。
「こんばんは、月の綺麗な夜ですね」
笑顔で挨拶。
「君が椿梨夜ちゃんだね、りっちゃんから話は聞いてるよ。私は咲麗梨乃、よろしくね」
「あ・・・私は椿・・・梨夜です・・・よろしくお願いいたします」
笑顔を返してくれた素敵な女性は柳也さんの話に何度か出てきた幼馴染。
柳也さんいわくうざいらしいけれどどうなのでしょう。
「こんな夜遅くに1人でこんなところに来てて怖くないの?夜更けに1人なんて危ないよ」
「・・・こんな時間ってまだ夜の8時ですよ」
「えぇ、夜8時と言ったらご飯を食べてそろそろ寝る時間じゃないのかな?」
「・・・さすがに寝る時間にしては早すぎな気もします・・・」
「りっちゃんも杏もおんなじことを言うけど私からすればみんな夜更かししすぎなんだよ」
・・・柳也さんと同い年なはずなので高校2年生のはずの梨乃さんはたくさん寝ないといけないらしい、いったいいつ勉強をしているのでしょう。
「梨夜ちゃんのことはりっちゃんから話は聞いてるよ、いい子だよ、お前も見習えって」
「私に見習うところなんて・・・」
「りっちゃんはどうしてか私には厳しいからね、でもいい子というのは本当っぽいね」
「会ってすぐに・・・わかるものなのですか?」
「う~ん、私はまだよくわからないけど。でもりっちゃんがそういう言うならそうなんじゃないかな?」
「柳也さんのこと・・・信頼されているのですね」
「う~ん信頼とは少し違うかな?付き合いが長いだけだよ」
羨ましい、その言葉が自然に出てくることが。
「でね、今日はりっちゃんから夕焼けの話をするように言われたから来たんだよ」
「ぁぁ・・・たしかに説明が面倒くさいから、別の奴連れてくると言ってましたね」
「そそ、りっちゃんも自分で説明すればいいのにね。それにしてもここは月がよく見える場所だね。りっちゃんもこの場所のことをいい場所だと言ってたよ」
「・・・ありがとうございます」
思い出の場所を褒められることは悪い気はしない。
「月ってね、地球には同じ顔しか見せないっていうの梨夜ちゃんは知ってた?」
「・・・はい」
「同じ部分しか見せないから人は月の裏側を想像していた時代もあるんだよ、月の裏側ってどんなのなのかな?表側と一緒なのかな?うさぎは本当にいるのかなって。梨夜ちゃんは月が裏側を見せない理由は何でだと思う?」
「それは・・・地球の自転周期と月の公転周期?」
「あはは、正解。梨夜ちゃんってリアリストなんだね」
「だめ・・・でした?」
「うぅん、そんなことないよ」
全力で身振り手振りしてフォローしてくれる。
「梨乃さんは・・・どんな理由があると・・思いますか?」
「お月様はね、地球に恋をしているんだよ」
唐突にメルヘン世界を展開する梨乃さん。
柳也さんからは一言、思考回路が少しおかしい奴だけど悪いやつじゃないと言われていたのを思い出した。
「お月様は地球に恋をしているから自分の酷い姿を見せたくない。自分の酷い姿を見たら好きな相手に幻滅されるかもしれないと恐れて。でもね、自分の綺麗な部分だけを見せ続けるのは何か違うと思うの。本当に好きな相手だったら醜い部分も見せるのが良いと思うの」
「・・・」
「でも、お月様はいつも1人だったから誰もそれを教えてあげられなかったの。だから今でもお月様は同じ部分を見せつつ地球の回りを回っていると私は思うの」
「・・・酷い部分も見せるのですか?・・・嫌われるのではと思わないのですか?」
「もちろん嫌われるかもしれない、相手はショックを受けるかもしれないね。でもね隠し続ければ隠し続けるだけ打ち明ける機会もなくなっていくと思う。もし誰かがお月様にアドバイスをしてくれていたならお月様も変わっていたのかも」
「・・・怖くはないのですか?」
「怖いよ、たぶん。隠し通せるならそれでもいいかもしれないけど隠し通そうとして自分を偽っていくのってストレスだと思うよ。永遠の片思いと決めているならそれで良いと思う。だけど近づきたいと願うなら本当の自分を見せた方が今後のお付き合いも楽になるよ、幻滅されるかもしれないけれど幻滅されるされる可能性を常に意識しつつお付き合いなんて私には窮屈で仕方ないよ」
「・・・そんな風に割り切れる人ばかりでは・・・ないと思います」
「うん、そうだね。臆病であることは当たり前のことなの、人ってすごく臆病な生き物なんだよ。臆病と弱いことは違う。克服出来る人は多くない、臆病であることを見ない振りしていきるか折り合いをつけて生きている人が大半」
「梨乃さんは・・・克服した人の1人なのですか?」
「あはは、そう見えるかな?見えるなら嬉しいな。でも違うよ、私も臆病な1人、折り合いをつけながら生きている人の1人だよ」
にっこりと笑う梨乃さん。まるで自分は偉そうなことを言っているけれどそんな偉そうなことを言える立場ではないと言っているよう。