「ちょっと恋水(れみ)、急に来れなくなったってどういうことですか!」
「ごめんごめん、言い忘れたけどライブのチケット取れてたら今日は行けなーい」
「そんな大事なことをなぜ貴女は・・・。わたくしはもう学園の校門前まで来てしまっているのですよ?」
「だって高校の学園祭よりライブの方が大事でしょー?あとでご飯おごるからさ、ね?」
「わたくしはライブに行くことを否定しているわけではありません!なぜわたくしが現地について貴女に連絡するまで忘れていたのかと聞いているのです!」
「あっはっは、だからごめんって。あとでご飯おごるからさ」
「はぁ~、もういいですよ、でもわたくしはどうすればよいのでしょう」
「せっかくだから学園祭見て回ればいいんじゃいない?部外者だっていっぱいいるでしょ?白鷺学園高等部の学園祭って有名でしょ?」
「中学生が1人で知らないところの学園祭に入るのにどれだけ勇気がいるか貴女はわかっているのですか?」
「えぇ、なんとかなるよ、大丈夫大丈夫!じゃああたしはライブ会場に入るからまたね」
通話は切れてしまった。
本来は今日は友人の恋水と2人で白鷺学園高等部の学園祭を見に行く約束をしていた。
集合時間になっても恋水が来なかったので連絡をしたのがさっきのやりとり。
どうしましょう、わたくし1人で学園祭を見て回る勇気はないですし・・・。
「おや、お嬢ちゃんひょっとして迷子かい?保護者の方とぐれたのかな?」
校門の前で迷っていたら高等部の生徒と思われる方から声をかけられてしまった。
「い、いえ、わたくしは迷子ではありませんし中学生なのに迷子だなんて」
「これは失礼、一見して中学生に見えなかったもので」
わたくしはどちらかと言えば小柄な方ですが小学生にでも見えたのでしょうか?
「わたくしはこれでも中学3年生で受験生です」
「あぁ、ごめんごめん。でも若く見えるのはいいことだよ。私は上に見られることが多いからちょっと羨ましいね。せっかくだからうちの学園祭を見ていきなよ。1人が心細いならお姉さんが案内してあげるからさ」
「は、はぁ」
そして半ば強引に案内されたのは1年生の教室。
「おーいみんな!可愛いお客さんを連れてきてやったぞ!」
「おお、たいらよくやったグッジョブ!」
「たいら?おい!私の苗字はたいらのだって言っているじゃないか!」
「そんなのどっちでもいいじゃないか、たいらのって呼びづらいし」
「はぁ?たいらとたいらのじゃ全っ然違う!鈴木さんと小林さんくらい違いがあるんだよ!いいかい、私は由緒ある平家の血筋なんだよ、室町時代以降はなぜかのがなくなってしまっているが平家一門の先祖に尊敬の念を抱いてたいらのと呼びなさい、いいね」
ぽかーんとあっけにとられていると別の方が声をかけてきた。
「ごめんなさいね、春日は自分の苗字にこだわりを持っているからときどきやらかすの。君は春日の親戚さんかな?」
「いえ、本日初めてお会いしました。校門の前で声をかけられまして」
「あぁ、それはなんというか災難だったね、よりによって春日につかまるなんて。春日は強引なところあるけど嫌がる子を無理やり連れまわそうとまでは考えないから嫌な時ははっきり嫌と言おうね」
「い、いえ別に嫌とかはないですけど・・・」
「おーい、春日!そっちでヒートアップしてないで連れてきたお嬢ちゃんの面倒を見なさいよね」
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本来は友達の恋水と一緒に見て回るはずだった白鷺学園高等部の学園祭。
この平春日先輩と一緒に回った。
「詩依君はこの学園を受験するのかい?」
「ぇぇ、どうでしょう?こちらの学校は中高一貫校ですし外部からの編入というのは肩身が狭そうと言いますか」
「あぁ、それはあるかもね。私も中等部からの進学だから編入のことはよくわからないし。去年も定員割れ起こしたって聞いたし編入は人気ないのかもね」
「それに私立はあくまで併願で本命は公立高校と考えてます」
「一般的にはそうだよね、私立ってお金がかかるって言うしね。でも学力が高ければ色々免除してもらえるから公立高校より安くなることもあるし、なにより大学への推薦枠は私立の方が多かったりするから大学進学を考えると私立も悪くないと思うよ」
「免除ってやっぱりかなり学力高くないといけませんよね」
「まぁね、でも私みたいな者でも特待生になれるわけだから誰にでもチャンスはあると思うよ」
「え?失礼ですが先輩ってそんなに学力高かったのですか?」
「ああ、勉強出来なそうってよく言われるけどこの前の定期テストは学年1位だったからね」
・・・意外すぎて言葉を失ってしまう。
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・・・
「本日は1日一緒に回っていただきありがとうございました。でもクラスの出し物とか良かったのですか?」
「いやいや楽しい1日を送れたわけだから感謝したいのはこちらの方だよ。クラスの方はどうにでもなるだろうしね」
「友達が来れなくなって1人だったから帰ろうかと思ってましたが先輩が声をかけてくださったおかげです」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれるね。出来るならまた一緒に話が出来れば嬉しいんだけど、ね」
「平君、仕事をさぼってどこに行っていたんだい?」
「あ、やば・・・見つかった。じゃあね詩依君、また会えることを願っているよ」
平先輩が走って行った先にいる男子生徒、その腕には風紀委員の腕章。
仕事をさぼってということは・・・平先輩も風紀委員だったということでしょうか?
学園を一緒に見て回る際常に堂々としていた先輩だったけどその人の前では慌てて何かを話しているし妙にへこへこしている。
あの方ってすごい人なのではないでしょうか。
あとで調べたところ、あの人は白鷺学園高等部の風紀委員会委員長でした。
ということは平先輩も風紀委員だったということなのでしょう。
その後、わたくしは学校の先生方の反対を押し切り白鷺学園高等部を受験し主席で編入しました。
白鷺学園高等部に入学後は風紀委員会に入り約1ヶ月で先輩の推薦という名の強権発動により風紀委員会委員長となりました。
普段はいい加減な様子でもしっかりサポートとアドバイスをしてくださる先輩には今でも感謝しております。
口には出しておりませんが白鷺学園に入学したこと。
先輩と一緒に過ごせていることには感謝しているのですよ。
いつの日かこの感謝の気持ちをお伝い出来ればと思っております。