私はいつもの場所へ足を運んだ。
月が見える教会の丘。
今日は色々なことがありました。
柳也さんに連れられて詩依さんと呼ばれる風紀委員長さんとその先輩の方との勉強会。
たくさん間違えましたが優しく教えてくれました。
そしてまた明日も来ても良いと・・・。
また明日という言葉、望んでも願っても叶わなかった尊い言葉。
夢が一つ叶いました。
「よう、遅かったじゃないか」
「あれ?・・・柳也さん?」
先に帰ってしまったはずの柳也さんがそこにいました。
「勉強会はどうだった?」
「・・・早々に逃げ帰ってしまった柳也さんには・・・関係ないです」
少しふてくされる私。初めての場所、年上の方々がいる中で一人置いてかれる気持ちも考えてほしいです。
「手厳しいな、梨夜は知らないだろうけど鬼姫様はガチで怖いんだぞ。学園で一番怖いとまで言われているんだからな」
「・・・もしそれが本当でも・・・逃げて良い理由にはなりません」
「俺は権力者ってやつが苦手なんだよ。それに昔、会議室で反省文書かされたこともあってその時なんて生きてる心地がしなかったしな」
「柳也さんは・・・反省文を書かせられるほどのこと・・・しでかしたということですか?」
「あ・・・、あれはもらい事故みたいなもんだし」
「ふ~ん・・・」
「信じてないな。まぁそんなことはおいといて、学校に行き始めて勉強会もした後でもここに来るんだな」
「・・・ここに来るのは私にとっては習慣みたいなものですからね」
そう言って私の特等席であるいつもの場所に座る。
柳也さんは先に来ていたものの私の特等席は空けて別のところに座っていた。
「梨夜、今は楽しいか?」
「・・・・・・・はい」
「そりゃ良かったな」
「柳也さんはどうして・・・そんなに優しくしてくれるのですか?私を怖くないと・・・言いますし、こんなところに1人でいるような・・・こんな私に・・・」
「なんとなくだよ。そうだなぁしいて言えばお前が寂しそうだったから、それが理由じゃだめか?」
「寂しそう・・・ですか」
「無理して怖がらせようとか、あえて人を寄せつけない様にしているようにしているように感じてな。でも本心は寂しい、誰かと一緒にいたいそんな気持ちが見え隠れしているように感じたんだ」
「そ・・そんな・・・こと・・・ないです」
「願うのは自由だからな、梨夜は誰かと一緒にいることを諦めているんじゃないか?人の心がわかるからとか気味悪いがられているとか勝手に思いこんでな」
「・・・」
「俺からすればくだらない。自分が諦めているだけなんじゃないかと思う」
「・・・諦めてます。誰かと一緒に・・・そんなんこと・・・奇跡でもなければ・・・無理なんじゃ・・・」
「奇跡?そんな尊いもんじゃねぇよ、奇跡っていうのはなもっともっと不可能なことを実現させる時に使う言葉なんだよ。誰かと一緒に同じ時間を過ごすことを願うというのならそんなことは朝飯前だ。梨夜が知らない世界を見せてやる。新しい世界を見せてやるよ」
「新しい・・・世界・・・ですか?」
「あぁそうだ、新しい世界だ。実際に見せたつもりだったんだがな。風紀委員会の鬼姫様と先輩に勉強を教えてもらってただろう?あの方々と一緒の時を過ごせただろ?」
「・・・はぃ」
「それに俺には天然でおせっかいな幼馴染とわがままな彼女がいる。あいつらは誰もお前のことを怖がらない、人の心がわかるくらいでびびるなら俺の幼馴染や彼女はやってない。そこは保障してやる」
「・・・はぁ」
「俺の知り合いは馬鹿ばかり。何も隠す必要もない馬鹿な奴もたくさんいる。1日1日を全力で駆け抜ける馬鹿ばかり。お前を怖がるやつなんていない。そんなやつがいれば俺が説教してやる。そんな世界を見せてやる」
「・・・その言葉・・・信じて・・・良いのですか?」
「あぁ任せろ!」
「信じた後に・・・裏切られたら・・・人はとてもとても・・・傷つくのですよ」
「俺を信じろって、世界の広さを教えてやるからさ」
「・・・信じます、その言葉・・・信じてみます」
そのあと、2人無言で空の月を見る。
今日も綺麗な夜空だった。
明日もこんな幸せな一日が送れるのでしょうか。
明日も明後日もその次の日も・・・。
人は初めからないものに対して欲しがることをあっても我慢出来る生き物です。
ですが与えられてから失ったものに対しては・・・。
当たり前の生活を奪われた私にとって今の生活は満たされている。
幸せすぎて突然すべてを失ったらと考えると・・・すごく怖い。