「あ、柳也さん、こんばんは、今日も月の綺麗な夜ですね」

「おう、梨夜は毎日毎日ここに来て飽きないのか?」

「この場所は飽きるとか飽きないとか・・・そういう問題では・・・ないのです」

「そうだったな」

そっと私の隣に座る柳也さん。
そして2人で夜空に輝く星々とお月様を眺める。

しばらく無言の時間が続く。

「そう言えば梨夜って学校行ってないんだってな」

「・・・はぃ、不登校ですが・・・」

「中学までは義務教育なんだから学校には行っとけよな?」

「・・・行きたくない・・・です」

「給食はうまいぞ。牛乳は飲めるだろ?高校に行ったら学食はあっても給食なんてあるところはほぼない。給食食えるのは中学校までだから食っとけ」

「学校に行け・・・給食食え・・・って今日の柳也さん・・・変です」

「梨夜の将来を心配しているんだよ」

「学校なんて行かなくても・・・なんとかなります」

「それは本気で言っているのか?ただの強がりなんじゃないのか?」

「・・・強がりなんかじゃ・・・ないです、・・・たぶん」

「梨夜が学校でどんなつらい思いをしてきたのかは知らん。だから同情はしない。同情する権利もない」

「・・・権利なんて・・・」

「それは俺の考えだから気にするな。ただ、嫌なことから逃げ続けてもいいことはないと思うぞ。義務教育くらいはな」

「嫌なんです!周りの人から色々思われるのが!今はもう力を使ってないよ!だからと言っても周りの人は過去の力を使っていた私を知っているの!力を使ってないなんて誰にもわからないの!」

思わず叫んでしまった。

悔しさもあった。
義務教育さえまともに受けられない自分の惨めさに。

裏切られた気持ちもあった。
柳也さんはプライベートには踏み込まない人だと勝手に思い込んでいたので余計に。

柳也さんは私の叫びを聞いた後に少しの間をもって優しく語りかけてくれました。

「梨夜、・・・俺はお前の気持ちを理解していなかった。全然わかっていなかった。そんなにも思い詰めていたということを」

「・・・っ」

「だけどな・・・。俺にはきっとお前の心の痛みはわからない。俺がどんなに無い頭を使って想像したとしても、きっと梨夜が今まで受けてきた悲しみの深さには届かない」

理解されたくないと言えば嘘になる。

でもここまではっきりと言い切られると理解されないという失望感を拭えない。

「だから俺は俺の言いたいことだけを梨夜に伝える」

「・・・はぃ」

「周りのやつらから何を思われているかなんて大事なことなのか?人の目なんてそんなに気にする必要があるのか?大切なのはあくまで自分自身なんじゃないのか?」

「・・・自分・・・自身」

「あぁ、俺は高等部だけど高校生にもなれば他人のことなんてそんなに気にしなくなるんだぜ。だから自分だけを見ていればいいんだよ。他人を気にするのは他人を気にする立場になってからでいいんじゃないか?」

「・・・そんなに・・・器用には・・・生きられません」

「器用さなんてものは必要ないさ、学校に行くだけならな。顔色をうかがって生きる人生なんて俺だって息苦しくてごめんだ」

「柳也さんにとっても・・・息苦しいと・・・感じるのですか?」

「当たり前だろそんなこと。俺は俺、他人は他人。他人が何を考えているかなんて俺にはわからない。わかったところで俺には関係ない。あ、勘違いしないでほしいが、これはあくまで学校に行くためのアドバイスだからな。それから先のことはその後から考えればいいだけさ」

「・・・そんな・・・行き当たりばったりな考えで・・・いいのですか?」

「いいんじゃねぇか?正解なんて誰にもわからないしな」

「・・・考えて・・・みます」

「前向きに考えてくれよな?」