「で?君のお願いごとっていったい何だったんだい?」
翌日になり俺は今、お茶会という名の拷問を受けている。
俺と鬼姫様と平先輩。
今俺と話しているのは先輩、鬼姫様はお湯を沸かして紅茶の用意をしている。
って何で教室とほぼ同じ作りなのにガスコンロや食器があるんだ。
「ある子に勉強を教えてあげてほしいと・・・思いまして・・・」
「ほお、わざわざ高等部に編入した学園1怖いと噂されている詩依にお願いするくらいだからその子は今年、受験生か何かなのかな?」
「ええ、そういうことです」
「学園の問題児と言われている君にしては高尚なお願いだね」
「ただですね、言いづらいのですがその子はすごく人見知りというか・・・ちょっと変わっているというか・・・」
「変わっている・・・かぁ、学園内でも指折りの変わり者の君が他人のことなんて言えるのかい?」
先輩は風紀委員会の異端児で社交的で明るくぐいぐい話を振ってくる。しかも風紀委員長だったにも関わらず多少の校則違反にも目をつぶってきたというつわものだ。
塵ひとつ許すことのなさそうな鬼姫様とは真逆とも言える性格の持ち主。
この2人、意見の衝突は多々あるけど最終的に鬼姫様が折れることの方が多いらしい。
鬼姫様がラスボスなら先輩はさらに強い隠しボスということなのだろう。
「先輩、お茶の用意が出来ました」
「お、ご苦労だったね。ではさっそくいただこうじゃないか、せっかくのお茶会なんだ、君も遠慮はいらないよ」
お茶を準備している最中から終始不機嫌そうな鬼姫様だったが手馴れた手つきで三人分のカップに紅茶を注ぐ。
渡されたカップが暖かい、準備の段階でカップを暖めていたことがわかる。
鬼姫様は紅茶ガチ勢だったのか。
渡されたカップを口元に持っていくと良い香りがした。
「いい匂いがする、しかもカップも暖かい」
「わかりますか!」
「っ!!」
いつもは冷静で淡々と業務をこなす鬼姫様が食い気味に反応してきたので不覚にもびびってしまった。
「紅茶というものは香りを楽しむものなのです。香り、見た目、そして味。その香りを出すために先生方に無理を言ってガスコンロを用意していただきました。香りを出すためには熱いお湯が必要ですからね。見た目の綺麗さはハーブティーに多少の軍配があがりますがハーブティーは透明なカップ、紅茶のカップは定番の白、ただしどちらもポットは透明というこだわりがありまして、ポットの中で茶葉が舞う姿を見つめるだけでも楽しいものですよ。さらに言えば・」
鬼姫様ってこんなに喋るんだと思って先輩の方に目を向けると多少恥ずかしそうにはにかんでいた。
その様子は特別な秘密を共有するもの同士の照れくささ。
その様子は大好きな娘が無邪気にはしゃいでいる様子をほほえましく見つめる親のよう。
紅茶についての話は終わることなく延々と続いていく。
おかわりを促しくるし、紅茶にあうクッキーも食べるように促してくる。
クッキーも甘すぎずしょっぱすぎない物が用意されていた。
鬼姫様は本当に紅茶が好きなのだろう。
・
・・
・・・紅茶についての話は1時間くらい続いた。
鬼姫様ってこんなに喋るんだ。
鬼姫様はそうとうにヒートアップしているらしく話が途切れることはない。
「というわけで続いてはミルクティーは邪道という話題でも・」
先輩は無言で鬼姫様と時計に視線を送る。
「はっ!もうこんな時間ですね」
たぶん先輩は鬼姫様の扱いにだいぶなれているのだろう。
「詩依、さんざん語ったわけだから彼のお願いごとを聞いてあげるように」
「えぇ、だってまだお話をしただけですし1時間程度紅茶について語っただけで彼のお願いごとを聞くなんて」
「詩依!」
先輩の無言の圧力。初めて見る先輩の鋭すぎる眼光。
鬼姫様も眼光には定評があり、意見を押し通すことが出来るだけの恐怖感があったが、先輩の眼光はその鬼姫様の比ではない。
横で見ている俺でもびびるくらいなので正面から見ている鬼姫様にはさすがに同情するしかない。
学園で1番怖いと言われているのは鬼姫様だけど、この時、先輩のことを怒らせてはいけないと本気で悟った。
「詩依、君は延々と語り彼の時間を拘束したのだよ。時間というものは有限でありかけがえのないもの。であることは忙しい詩依ならわかるよね」
「そ、それはもちろんわかっております・・・ですが」
視線だけで人を殺せそうな先輩はふっと一呼吸したあと笑顔で。
「それにな・・・、詩依だって楽しかったんじゃないか?私以外の誰かに紅茶の話が出来てさ。楽しいことに対する対価としては十分すぎるんじゃないか」
「・・・はぃ」
鬼姫様は楽しんでいたのか?たしかにいつもの鬼姫様とは思えないくらいのテンションだったけれども。
「なら羽藤君のお願いを聞いてあげなよ」
「・・・わかりました、仕方ありませんよね」