「はぁ?なぜわたくしがそんなことをしないといけないのですか?わたくしは日々の業務に忙しいのですよ、暇そうな貴方と一緒にしないでください!」
開口一番に断られてしまった。
そりゃそうだろう。
相手はあの風紀委員長、鬼姫様だからな。
「そこを何とかお願いだから。学力があって高校受験をした知り合いは鬼姫様と杏しかいないいなんだよ」
この学園は中高一貫校なので編入組として入って来ない限り形式上の進級試験のみで高等部に上がれてしまう。
「だったらその樋渡(ひわたり)さんにお願いすればいいでしょ!学力もそれなりにあるし樋渡さんは貴方の彼女でしょ。なぜ彼女さんにお願いしないでわたくしに相談してくるのですか?それとも樋渡さんに断られたから泣く泣くわたくしのところに来たのですか?」
「あいつにはまだ頼んでないが、あいつはだめだ、面倒なことが嫌いだからな」
「だからってそんな面倒なことをわたくしに押し付けないでください!!!」
バンっ!と会議室の机を叩く音が鳴り響く。
「相変わらず詩依も強情だな。学園の問題児がわざわざ会議室までやってきてくれたんだ。問題児は職室員室とこの会議室に好き好んで来ようとは思わないものだよ?」
「平(たいらの)先輩!」
平先輩とは先代の風紀委員長様、この学園で唯一鬼姫様に意見出来る存在。
風紀委員長の座を譲った後もなんだかんだで会議室に入り浸っていると聞いていたが・・・。
「詩依、相手が誠意をもってお願いに来ているのに問答無用で断るのは酷というものだぞ」
「で、ですが学園内で完結するお願いなら検討の余地もありますが、この方はわたくしの放課後の貴重な時間を拘束しようとしているのですよ。わたくしは暇人にお付き合い出来るほど暇ではありません」
「そんなこと、それ相応の対価を払ってもらえばいいだけの話だろ?世の中の大原則は等価交換だ、私もただでお願いを引き受けろなどとは言ってない。で、羽藤柳也君、君は詩依に何をしてくれるのかな?」
「・・・資料整理くらいなら」
「貴方のお願いが資料整理程度で見合う労力だと思っているのですか!!」
「そ、それは・・・その」
ばんっ!と机を両手で叩く鬼姫様、こえぇよ。
「確かに急に対価を支払えと言われても困るよね、お姉さんも考えてあげよう・・・う~ん・・・そうだねぇ・・・。そうだ!詩依と一日デートでいいんじゃないか?」
「はあ?先輩、自分がなにをおっしゃっているのかわかっているのですか?」
「もちろんわかっているよ、詩依を満足させたら対価としては十分だろ?」
「冗談ではありません!先輩はわたくしにそんな時間があると思っているのですか?しかもこの男、羽藤柳也さんには彼女がいるのですよ!学園内での不純行為は先輩が長年容認しているからわたくしもしぶしぶ黙認しているのです。その立場であるわたくしがなぜデートなんてしなければならないのですか!」
「え?そうなのか?君は彼女いたのかい?」
「え、・・・えぇ一応」
火に油というレベルではなく火にガソリン、火のあるところにニトログリセリンを投下していくかの様な先輩にたじたじなる。
鬼姫様も怖いがその鬼姫様の逆鱗にあえて触れていくような先輩の発言も恐怖でしかない。
お願いだから余計なことだけは言わないでほしい。
「では私もご一緒しようではないか、風紀委員会の委員長様と先代風紀委員会の私と放課後デート出来るなんて君は幸せ者だな」
会話をかみ合わせず力技でごり押そうとする先輩。
学園の鬼姫様とその鬼姫様も一目置く先代の委員長様とデートなんて拷問だろ。
「あれ?二人とも嫌なのかい?私は楽しそうだと思うんだけどな」
「却下です、却下!却下!さすがに先輩の意見でも風紀委員会と関係ない意見なので却下いたします」
「そっか、なら三人でこの会議室でお茶会で手を打とうじゃないか」
「だーかーら」
「あの・・・俺の意見は・・・」
「貴方に意見をする権利はございません!!!」
「はぁ~、私としては全校生徒がうらやむシチュエーションだと思うけどな。限られた人しか入ることすら許されていないこの会議室で詩依の作った紅茶を飲めるんなんてお金を払ってもいいレベルだと思うよ。詩依が淹れる紅茶は格別だ、そこらのファミレスはおろか喫茶店で飲む紅茶とも全然違うからね」
「はぁあ?なぜわたくしが紅茶を入れなければならないのですか?その行為にいったいどんなメリットがあるというのですか?わたくしにもわかるように説明を願えますか、先輩!」
「メリット?さぁ、なんとなく?」
「あのぉ~、俺の発言権は・・・」
「そんなものはありません!!!」
怒りながら猛抗議する鬼姫様だったけど半ば強引にお茶会の日程が決められてしまった。
鬼姫様にもまったく動じる様子を見せない平先輩・・・、この人は器が違う。本物だ。