いつもの時間、いつもの場所でのんびりと月を眺めていた。

お月様はいつもと変わらず今日も夜空を照らしてくれている。

太陽は私にとって眩しすぎる。

太陽の光は数多の生き物に生きる活力を与えてくれる。

その昔、人は日の光とともに活動をし日が沈むと就寝をしていたと聞いた。

人々は太陽とともに生活をしてきた。

そんな太陽は私にとって眩しすぎる。


光あるところには当然影もある、それがお月様という存在。

影であるお月様の光さえ私には眩しいくらい。

そんなお月様を眺めつつそっとつぶやく。

「ねぇお月様?あなたはいつも夜空を照らすだけ。孤独じゃないの?」

当然答えは返ってこない、答えなんて最初から期待していなかった。

でも・・・。

「月のまわりには星があるだろ?星が一緒に輝いてくれるから孤独じゃないんじゃねえか?」

「っ!!」

振り向くとこの前の男の人が立っていた。

完全な不意打ちに少々戸惑った。

人の心がわかるとは言えいつでもアンテナを張っているわけではない。
だからその不意打ちの言葉に戸惑った。

「き、君はこの前の・・・」

「羽藤柳也(はとうりゅうや)だ。一応俺の方が年上に見えるけれど特別に柳也でいいよ」

「・・・・・・なんで」

面白半分で1回ここにくる人はいたけれど・・・。

「何がなんでかわからんが名前を教えてもらったからな。そっちが名乗ったのにこちらが名乗らないってのは俺の紳士道に反するからな」

「き、君は・・・馬鹿なの?そんな理由でまたここに?こんな場所に面白半分で・・・2回も?」

「会って2回目で馬鹿呼ばわりとは心外だな。まぁクラスの奴からはよく馬鹿だと言われているけどさすがにここに来ただけで馬鹿呼ばわりは傷つくんだぜ」

「・・・ごめんなさい」

「まぁ冗談だ気にするな。そんなことよりお前はいつもここにいるのか?」

「梨夜、・・・お前じゃないから」

「すまんな、じゃあ梨夜はいつもここに来てるのか?何もないじゃないか」

「月が・・・綺麗だから」

「そっか」

そういうと柳也さんと名乗った男の人はそっと私の隣に座りだした。

「ちょっ・・・、いきなり隣に座るとか・・・何を考えているのですか?」

「何をって・・・梨夜は人の心がわかるんだろう?今さら説明が必要なのか?」

「・・・ぅぅ」

たぶん何も考えてないのだろう。

私が出会った中ではいなかったタイプ。

本能のみで行動するタイプ。

「り、柳也さんは私のこと・・・怖くないの?」

「怖いかどうかか?そんなことはしらんし興味もない。俺は梨夜の言うことすべて信じているわけじゃない。何より俺は俺自身が見たものと聞いたもの以外は信じない主義なんだ。だから噂なんてものは信じてない」

「・・・」

「ふぅ、月なんてどこで見ても同じだと思ってたけど、たしかにこの場所で見る月は綺麗なのかもな」


「どうしてまた・・・ここに来たの?何が目的なの?ここには幽霊なんていなんだよ?いるのは私だけ。幽霊と噂され続けるこっけいな私をあざ笑うため?」

「月が綺麗な場所だからってことじゃだめなのか?梨夜が自分で言っていたじゃないか。月が綺麗な夜だって。ここは月が綺麗な夜空がある。だからその綺麗な夜空をまた見に来たということじゃだめなのか?」

「・・・ぅぅ」

柳也さんは嘘はついていない。
何か裏があり取り繕っただけにしても、お月様を見に来たという言葉だけは本当だった。

綺麗なお月様を見るためにここに来るの?気味の悪い私がいるというのに。
理解出来ない。

「・・・君って・・・変な人だね」

「よく言われる」

しばらく一緒に座りながらお月様を眺める。

無言の時間。

一人でお月様を眺めている時とはまた違う無言の時間。

どれくらいぶりだろう、誰かと一緒に月を眺めるという行為は・・・。

お婆様が生きていた時ぶりだとしたらそれは遠い昔のこと。


「ねぇ、ここに来た本当の理由聞かせてよ」

「さっきから言っているじゃねぇか、それに人の心がわかるなら言う必要なんt」

「人の心はわかるよ、でも柳也さん本人の口からもう1度聞きたいの」

「お前、いや梨夜も自分が聞いたものしか信じられないタイプなのか?それはそれで苦労するぞ」

「心の声と・・・発せられる言葉は同じとは限らない。無意識に本心を隠そうとする・・・人も多いから。知らない人、ましては・・・こんな時間に会って間もない人に・・・本心を話すということはとても難しいことなんだよ。本心を話せる人かどうかを確認する上でも、言葉にしてもらうという行為は大事なことなんだよ」

「俺は本心を隠し通せるほど器用な生き方はしてねぇよ。昼にそこの教会で梨夜のことを聞いたんだ、それで気になってな」

「そこの教会にはもう・・・誰もいないはずだよ」

「それは夜の話だろ?つぶれたとは言え昼には神父が掃除に来ているんだぜ、信仰心厚くて感心したぜ」