やがて車は、高速を下り市街地を走り始めた。
どこか、見覚えのある街並みが目に入る。

「地元に帰ってきたよ。どこがいいかわからなくて」

彼がそっと口を開いた。

「うん……。ありがとう」

わたしたちの地元は山と海が近く、少し山を登れば街全体と港が見渡せるスポットが沢山ある。観光でも有名なところだった。
地元の人間は観光スポットにはほとんど行かない。みな、自分たちだけの特別スポットを持っているのだ。
わたしたちの高校でもそれは一緒で、学校の北側の山道に、小さいが、とても綺麗な展望エリアがあるのを皆、知っていた。

車はその近くへゆっくりと止まる。平日の夜のせいか、屋根のついた四阿(和風のガゼボ)のベンチにも誰もいなくかった。

目の前に、港と、街の夜景が広がる。校舎も見えるはずだが、木々に阻まれて真っ黒な塊にしか見えなかった。月が淡くあたりを照らしている。

「すごい……!全然変わってないね。この景色」
「街も、もう少し開けたかなって思ってたけど、あの頃とあんまり変化ないね」

わたしは元気な声を出してみた。
「上月くん、ここではお店出さないの? 地元でしょ?」
「うーん。今はまだ予定はないかな」
「そうなんだ。いつか戻ってみたいと思うな、わたし」
「ふふ。じゃあ先輩にお店、一つ任せてみましょうか」
「や、やめてよ。絶対潰しちゃうよ……!」

笑ってみせる。なんの気ない会話をできていることに、自分でも驚いてしまった。
でも、彼はやっぱり、気づいている。

「なにか、あった……?」