そこへ


「翔平、ドイツのクラブからメッセージが届いたぞ。」


と言いながら、マネージャーが入って来た。


「読むぞ。『今回のドクター黒部の処置に心から感謝申し上げます。お陰様で、当クラブは優秀なストライカーを失わずに済みそうです。これからまだまだ時間は必要でしょうが、翔平が再びピッチを姿を現すのを、ドイツで心から待っています。その日が来るまで、翔平をよろしくお願いします。』って。よかったな、翔平。黒部先生は、術後のお疲れの中、詳細なレポートをドイツに送って下さったんだ。」


「そうだったんですか?」


「それで向こうの心証がだいぶよくなったのは間違いない。これで安心して、リハビリに専念出来るぞ。」


「ああ。先生、本当にありがとうございました。」


「礼は要らねぇよ、仕事だからな。」


と平然と答えた黒部は


「それで今後のことなんだが。」


話題を切り替えた。


「はい。」


「術後の経過観察もあるから、当面はここでリハビリを続けてもらうが、正直ここは施設もスタッフの数も、京王記念病院の足元にも及ばない。だが、実は静岡県の伊東にリハビリ専門の分院があるんだ。」


「えっ、そうなんですか?」


「ああ、あそこなら施設もスタッフも充実してる。それに伊東と言えば、自然は豊かだし、なんと言っても良質な温泉に恵まれてる。そういう場所で、身体だけでなく心も癒やしながらじっくり腰を落ち着けて、リハビリに取り組めば、効果も上がるはずだ。」


「そりゃ、願ってもない話です。なぁ、翔平。」


「あ、ああ・・・。」


「じゃ、とりあえず2週間程、様子を見て、問題ないようなら、あっちへ転院する方向で、進めていこう。」


「わかりました、よろしくお願いします。」


マネージャーの言葉に頷いて、黒部は病室を後にする。


「いやぁ、正直リハビリの件は困ってたんだ。まさかまた京王記念病院に戻らせてくれとは言えないし、協会とも相談しようと思ってたんだが、よかった、よかった。」


心からホッとしたように言うマネージャーの横で、複雑そうな表情で黙り込む翔平。そして、そんな彼をまた、朱莉が不安げな表情で見つめていた。