手術は予定通り、執行された。


午後1時に開始された手術は、2時間は掛からないという黒部の言葉通り、1時間を少し超えたくらいで終わった。麻酔が切れ、翔平が目を覚ましたのは、それから2時間ほど経った頃だった。


「お目覚め?」


という声が聞こえてきたの方を見た翔平の目に映ったのは、穏やかな表情でこちらを見る恵の姿だった。


「本多・・・。」


「なに?そのお前かよっていうあからさまにガッカリした顔は。」


「そ、そんなことねぇよ。」


「申し訳ありませんね、未来でも朱莉さんでもなくて。でも今、私は黒部先生の代理でここにいるんで。」


「先生は?」


「記者会見中。」


「えっ?」


「京王記念病院さんの徹底した秘密主義にマスコミさんの不満が頂点に達しててさ。情報統制はもちろん必要なんだけど、行き過ぎはね。結果として、いろんな憶測を呼ぶだけだったし。」


笑顔で言った恵は、表情を改め


「手術は成功です。後ほど改めて先生からご説明がありますが、数日中にはリハビリを再開出来る見込みです。高城さん、お疲れ様でした。」


と告げると、ニコリと微笑んだ。


「ありがとう・・・ございます。」


その笑顔に少しドキリとしたことはおくびにも出さずに、翔平は頭を下げる。


「ダメだね、私たちに他人行儀はやっぱり似合わん。」


「そうだな。」


そう言い合って、照れ臭そうな笑みを浮かべた2人。


「この前、再会した時はゆっくり話す暇もなかったけど、それにしてもお前が医者になってるとは思わなかった。」


「あんたは忙しくて、同窓会も出て来たことなかったからね。私、高校入っても、陸上続けてたんだけど、足痛めちゃってさ。結局、そのケガがもとで、競技を断念せざるを得なくなったんだけど、その時に思ったんだ。患者に、それも女子選手に寄り添えるドクターになりたいって。」


「スポーツ整形外科の女性医師って少ないもんな。」


「まぁいろいろ大変なこともあったけど、なんとかここまで来た。今は黒部先生に付いて、独り立ちに向けての最後の勉強をしてるところ。」


「そっか、でもいい先生に付いたな。」


「滅茶苦茶厳しいけどね。」


「やっぱり?」


「うん、でもあの人に付いていけば、絶対にいい医師になれる自信あるから。次にあんたがケガした時は、私が面倒見てやる。」


「サッカー選手にケガは付き物だが、それにしても最近デカいケガが多過ぎる。もう勘弁してくれ。」


翔平は苦笑いを浮かべながら、言った。