「待たせたな。」


と言いながら、黒部が恵を引き連れて入って来た。


「先生、この度は俺の我が儘をお聞きいただきありがとうございました。」


そう言って、頭を下げた翔平に


「そんなことは気にするな。正直、この急展開に驚いてないわけじゃないが、でも、患者に頼ってもらえることは、医者冥利につきるからな。」


そう言ってチラリと笑みを浮かべながら、黒部は椅子に座った。


「すみません。1度は先生の執刀をお断りしておきながら、勝手なことを言い、先生にもご迷惑をお掛けすることに・・・。」


「俺としては、頼まれれば承知しましたとお答えするだけだ。だがそこまでのお膳立てした人たちは、たぶん大変だったんじゃないのか?」


黒部の言葉に、翔平の横のマネ-ジャ-が少し照れ臭そうな表情になる。


「ということで、始めようか。」


「よろしくお願いします。」


黒部は2つの画像をモニタ-に映し出した。


「左が半年前にここに担ぎ込まれて来た時の右足の画像、右がさっき撮った画像。違いが判るか?」


「ええ。」


「切れちまった靭帯3本、損傷した残り1本、共に着実に修復が進んでる。あとで見せるが、割れた膝の皿もほぼくっついた。あれだけの重傷にしちゃ、よくここまで戻って来たと言っていい。この半年は決して無駄じゃなかったということだ。」


「はい。」


「だが、残念ながら、ここに来て、回復のスピ-ドが鈍り一進一退、それが現在の状況だ。特に右足先の感覚が戻らないことが1番の問題、そういう認識でいいか?」


「俺の自覚症状としては、合ってます。」


翔平の答えに頷いた黒部は


「再手術が必要だ。」


と告げた。


「えっ、またですか?」


思わず聞き返す翔平。既に遠山の手によって、ひと月ほど前に再手術が行われたばかりだったからだ。


「神経の再移植手術だ。それがうまく行けば、必ず症状は好転に向かう。」


自信たっぷりな表情で黒部は言う。


「それは・・・遠山先生の手術ミスがあったということですか?」


遠慮がちに尋ねるマネ-ジャ-に


「それは俺が軽々に口にすることじゃない。」


と制した黒部は


「手術は明後日。順調なら2時間かからないはずだ。執刀の際は恵を研修医として立ち会わせる。あんた、コイツの同級生だったよな。コイツにとっては一本立ちの為の貴重な機会だ、了承して欲しい。」


と告げ、それを受けて恵が軽く、翔平に頭を下げる。


「了解しましたが、まさか本多の手術の実習じゃないでしょうね?だとしたら、俺即刻ドイツに行きますけど。」


軽口を叩いた翔平に


「ちょっと、高城。」


「ハハハ。日本のエースストライカ-を、人体実験の場にするほど、俺も度胸は良くない。全力を尽くしてやるよ、あんたの為、あんたを応援する多くのファンの為、そしてアイツの為にな。」


そう言って、ニヤッと笑った黒部に


「よろしくお願いします。」


翔平も微笑むと、頭を下げた。