事態は動いた。翔平が自分の意思として、渡独を1度キャンセルして、城南大学病院黒部医師の再診を受けたいと、協会関係者、マネ-ジャ-、更には京王記念病院側に伝えたのだ。


「そんな、今になって・・・。」


困惑を隠せないマネ-ジャ-に対して


「自分の身体のことは、自分で決めたいし、そうする権利が選手にはあるでしょ。俺は今までサッカ-選手としても、人としても『あの時、なんでああしなかったんだろう』という後悔だけはしないようして来たつもりだ。だから今回もそうさせて欲しい。」


翔平は毅然と言う。


「しかし・・・。」


「マネ-ジャ-の懸念はわかってる。クラブの指示に従わないのは事実だから、解雇でも給料停止でも構わない。治療費だってクラブにも協会にも迷惑を掛けるつもりもない、自費で結構です。」


「翔平、事は金だけの問題じゃないんだよ。」


尚もマネ-ジャ-は窘めるように言うが


「マネ-ジャ-。我々が望んでいるのは、翔平が再びピッチに立てるようになること、ただそれだけのはずだ。その為に我々がベタ-だと思って下した判断が、現状結果が出てない以上、今は翔平の意思を尊重すべきじゃないか?大人の事情や思惑は二の次、三の次の話だろう。」


協会理事が口を挟む。これにはマネ-ジャ-が驚いたように


「協会はそれでよろしいんですか?」


と問いただしたが


「チェアマン以下、誰にも異存はない。ここの病院も、今更四の五の言うつもりもないだろうし、あとはクラブの方だが、さっきの翔平の言葉を伝えてやれば、文句の言いようもなかろう。今は時を空費してる時じゃない、我々が為すべきことは、翔平の望むように動くことだろう。こんなことで、ゴチャゴチャ揉めてるようじゃ、今後代表チ-ムに入って、頑張ってくれる選手なんて、いなくなってしまうよ。」


諭すような理事の言葉に


「わかりました。ではクラブチ-ムに連絡します。」


納得したように頷いた。


「病院側との折衝は、こちらで引き受ける。」


そう言って、動き出した理事に


「ありがとうございます、よろしくお願いします。」


翔平は頭を下げる。


「任せておけ。」


と言って理事とマネ-ジャ-は病室を後にした。


それからはスム-ズだった。翌日の午後には、翔平は城南大学病院に再転院。早速、MRI検査を受けた後、診察室で黒部が現れるのをマネ-ジャ-と共に待っていた。