頭を上げると、厳しい表情で自分を見ている翔平の姿が目に入る。彼が今、どんな思いで自分を見つめているのか、未来にはよくわかっていた。話さなければならないことも、話したいこともいっぱいあった。だけど・・・未来は彼の目を見て、話し出した。


「翔くん、今日はあなたにお願いがあって来たの。」


「お願い?」


「ドイツに再検査に行くんでしょ?」


「ああ。」


「その前にウチの病院で、もう1度検査を受けて欲しいの。」


「ウチの病院・・・?」


「私、今、城南大学病院で看護師をしてます。」


「えっ?」


その未来の言葉に、翔平も朱莉も驚きの表情を浮かべる。


「整形外科の所属ではないんだけど、同じ病院に勤めている者として、黒部先生の腕が確かなのは知ってる。こちらの近藤先生に比べて、知名度や学界の評価はまだ低いけど。」


「未来・・・。」


「セカンドオピニオンとして、頼る価値は十分にあるはずだよ。ううん、本来なら、黒部先生の方がファーストオピニオンだったはずじゃない。先生はあんな感じでとっつきも悪いし、それでボタンの掛け違いような感じになってしまったのかもしれないけど、翔くんの症状も正確に把握されていた。翔くんにとって、黒部先生に診てもらうことは、絶対にマイナスにはならないと思う。だから、是非・・・そうして下さい。お願いします。」


そう言って、未来は頭を下げた。なんとも言えない空気が、病室に漂い、沈黙が流れる。困惑の色を隠せない翔平を、未来が見つめていると


「藤牧さん。」


朱莉が口を開いた。


「失礼ですけど、あなた、ご自分の病院の営業にいらしたのかしら?」


冷ややかな口調だった。


「そんなつもりは・・・。私はただ翔くんの為を思って・・・。」


頭を振る未来に


「ご存じのように翔平が負傷してから、既に半年以上が経過してます。しかし残念ながら、この間の治療、リハビリの効果が思ったように上がって来ていない。それで今回、翔平が以前お世話になっていたドイツの病院で再検診を受けることになったんです。翔平が一日も早くピッチに立つ為に、もう時間を空費している余裕はないんです。」


「空費って・・・。」


「はっきり言って、今あなたがおっしゃったことは曖昧な観念論に過ぎない。黒部医師がどれだけ優秀で、実績のある先生なのか、あなたは1つの事例も示してはいませんよね。」


朱莉はピシャリと言う。