4月に入って、入学式は目前。もう動ける時間は限られていた。


「行ってみよう。」


『うん。』


2人に躊躇はなかった。親の許可を取り、2人は電車に飛び乗った。2時間あまりの時間をやたら長く感じながら、ようやく最寄り駅に到着した。前回のように迎えなど、当然なく、2人は聞いていた住所と記憶を頼りに未来の家に向かう。バスを降り、スマホを片手にようやく辿り着いた。


「ここだ。」


「うん。」


頷き合った2人、翔平がインタ-フォンを押す、が反応がない。


「高城、表札が外されてる。」


「えっ?」


夢中で気付かなかったが、確かにこの前来た時にはあった表札が・・・ない。


「引っ越したってこと・・・?」


「聞いてみよう。」


なりふり構わず、隣近所のインタ-フォンを鳴らしてみるが、どこの家も不在なのか、反応がない。


「どうする?」


「病院に行ってみよう。ひょっとしたら、体調が悪化して入院してるのかもしれない。」


2人が前回、未来を訪ねた時は入院していなかったが、学校と病院の場所は教えてもらっている。2人は焦る気持ちを抑えきれずに走る。10分程で見えて来た建物の受付に息を弾ませたまま駆け込んだ2人。


「こちらの病院に藤牧未来という中学生・・・いや今度高校生になる女の子が入院してませんか!」


翔平は尋ねる。その勢い込んだ様子に、一瞬目を白黒させた受付の女性は、しかしすぐに調べ始め


「藤牧さんは5日前に退院され、他の病院に転院されました。」


と答えた。


「ど、どこに転院したんですか?」


動揺を隠せないまま、翔平が更に尋ねるが


「さぁ、それはこちらでは。それに、もしわかったとしても、個人情報ですから、お教えできません。」


女性は冷静に答える。


「せめて、未来がいつからこちらに入院していたかだけでも、教えていただけませんか?」


今度は恵が食い下がる。


「本来ならそれも教えられないんですが・・・こちらの記録によれば、退院される1週間前に緊急搬送されたようです。」


「私たちに連絡くれた時は、未来は入院してたんだよ。」


「アイツ、そんなこと一言も俺たちに言わなかったじゃないか。」


そう言って顔を見合わせた恵と翔平は、女性にお礼を言うと、病院を出た。諦めきれずに自宅近くでもう1度聞きまわったが、


「挨拶もなく慌ただしく去って行った、行き先はわからない。」


ということがようやくわかっただけだった。


「なんだよ、それ・・・。」


翔平は力なく座り込み


「未来のバカ、なんで私たちに何も言わないで、いなくなっちゃったのよ・・・。」


恵の涙ながらの声が虚しく響く。こうして未来は、家族ごと、忽然と翔平たちの前から姿を消してしまった。そして、もはや、その行方は、翔平たちの力では追い求めようがなかった。