それから、受験勉強が佳境に入って行く恵たちを尻目に、推薦が決まっている翔平は後輩たちに交じって、サッカ-の練習に励みながら、残り少なくなって来た中学生活を送っていた。


未来とは、彼女の言葉通り、スマホでのやり取りを続けていた。体調も良く、新しい環境にもだいぶ慣れて来たと語る電話越しの未来の声は元気そうで、翔平はひとまず安心していた。


そして冬休みに入ると、待ちかねたように翔平は未来のもとに向かった。東京と埼玉は隣接県だが、未来の転居先は神奈川の県境に近く、電車とバスを乗り継いで、やはり彼女の言う通り、2時間は優に掛かり、翔平は未来との物理的な距離をまざまざと実感させられた。


最寄り駅に着くと、なんと未来が迎えに来ていた。心配する翔平に


「こっちに来てから、ずっと調子がいいんだ。」


未来は笑顔で言う。転居してから2週間は新しい病院に入院したが、その後は通常の通院のみになっていることは聞いて、知っていたが、顔色も良く、いくらかふっくらした彼女を見て、翔平は嬉しくなった。


そのあとは、景子の運転で、今の未来の病院と学校を案内してもらった。


「本当に学校と病院がすぐ近くなんだな。」


「うん、すごくいい環境だよ。」


未来は明るい表情で答える。


それから、自宅に招かれ、昼食をご馳走になりながら、翔平は未来と久しぶりにいろんな話をした。話しても話しても飽き足らない様子の2人を、景子は微笑ましげに見ていた。あっという間に時が過ぎた、そろそろ帰らないとと言い出した翔平を未来は外に誘った。


少し歩くと川が流れていた。その横には遊歩道があって、何人もの人たちが散歩を楽しんでいた。もう12月も下旬に差し掛かり、クリスマスも目前という時期だったが、風もなく穏やかな日だった。


「なんかここ、東京とは思えねぇな。」


「見て、ここに並んでるの、みんな桜の木だよ。」


「本当だ。」


「春になるとね、この遊歩道の両脇に桜が咲き乱れるんだって。」


「綺麗だろうな。」


「今から楽しみだよ。」


そう言いながら、未来は横の翔平を見た。


「翔くん。」


「うん?」


「その頃、また来て。一緒に桜、見ようよ。」


「ああ。」


頷いた翔平に


「たぶん、その後くらいに私、いよいよ手術を受けることになるから。」


未来はそう言って、微笑んだ。


「本当か?ずっとタイミングを計ってたあの手術か?」


勢い込んで尋ねる翔平に


「うん。先生が今の調子なら、その頃なら大丈夫だろうって、言って下さって。」


答える未来も嬉しそうだ。


「そっか・・・よかったなぁ。」


「ありがとう、翔くん。」


見つめ合う2人。


「ねぇ、翔くん。」


「うん?」


「今日はもう翔くん、帰らなきゃいけないけど、駅前のクリスマスイルミネ-ション、結構きれいなんだよ。だから来年は・・・。」


「ああ、絶対に一緒に見ような。」


「うん!」


その後の長い帰り道の時間が、翔平は寂しさはあったけど、全く苦にならなかった。


「ずっと一緒にいられるようになる為に、今は離れなきゃならないんだよ。」


引っ越す前のあの未来の言葉が、間違っていなかったことが実感出来たことが、翔平の心を弾ませていたからだ。