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「あ、那奈」
6限までの授業を終え、いつものように図書館に本を返しに行こうと廊下を歩いていたら、呼び止められた。
「那奈さ、部活興味ない?」
同じ1年の井上くん。
この高校に一緒に入学した、唯一の小中学校時代の同級生。
「えーっと、湊は何部だっけ」
他の子がいる前では、ちょっと恥ずかしくて“井上くん”って呼んでるけど、今は他に誰もいない。
図書館の近くの廊下なんて、そんなもん。
「俺、吹部。吹奏楽、興味ない?」
「興味ない訳じゃないけど・・・」
もごもごとはっきりしない私に、湊は妙に納得した表情をした。
「おばさんが何て言うか分かんないよなー。無理にとは言わないけど、人数が足りないパートがあるから、勧誘誘われたんだ。それだけ。気を付けて帰れよ」
結構な長文を一息で言い、音楽室に向かう階段へと足早に歩いて行った。
部活に行く前に図書館に寄ってたんだ。
湊も本、好きだもんね。