「おかえり」

「ねえねえ、那奈ちゃんと世那くんにケーキ勝ってきたから、休憩しない?」


お母さんは、左手に持っていたケーキの箱を少し持ち上げた。

やっぱり、私がずっと勉強していたと思って疑わないんだろうな。


「うん、ありがとう。すぐ行くね」


私の言葉に、お母さんは満足そうに微笑み、私の部屋のドアを開けたままリビングの方へと歩いていった。


「ふぅ・・・」


ため息をひとつつき、部屋を出てドアを閉めた。

お母さんのことは好き。だけど、苦手。

世那とお父さんの前では“素”の私でいられるのに、お母さんの前では“優等生の那奈”でいないといけないから。