「あー、ほんとごめんな。今日はありがとう」
「もういいよ。山本は1組に行ってください」
浅海に言われ、体の向きを右に変えて歩き出した。
すると、人の間を縫うように一人の女性が歩いてくる。
ちょっと化粧をして、見たことのないおしゃれな服を着ているけど、すぐに分かった。
相手も俺に気付いて、目が合った。
「久しぶり。やっと会えたね」
自然に口が動いた。
その瞬間、髙橋の目から涙があふれ出た。
涙をぬぐうために顔に近付けた手。
そこから伸びる指には、可愛いピンクのネイルがしてある。
「あー、えっと、ごめん、髙橋。あの・・・」
俺は、髙橋の涙に情けなくおろおろしてしまう。
「え、山本じゃん」
「ちょっと、髙橋さん泣かせんなよー」
周りに色々な言葉が聞こえるのに、髙橋の涙は止まってくれない。
「ちょ・・・こっち」
俺は困り果て、髙橋の左手を取り、教室から離れるように歩き出した。
その行動に驚いたのか、髙橋の涙は徐々に少なくなり、隣の校舎に着く頃には止まっていた。