「あー、ごめんごめん。俺、隣のクラスの山瀬(やませ)。野球部なんだけど、うちの野球部部員少なすぎてさ・・・」


山瀬くんはそう言うと、すがるような目で俺を見つめた。

困って今度は前の席の女子に視線を移すと、こっちも同じような目で見ている。

え、もしかしなくても俺に入部を勧めてる?


「あ・・・ごめんだけど、さすがにこの時期に入る勇気はない」

「そっかー、まあ、そうだよなー」

「うん、残念だけど仕方ないよね」


山瀬も前の席の女子も納得してくれたみたいで、それ以上無理強いはされなかった。

野球をやりたい気持ちはもちろんある。

でも、急に環境が変わりすぎて純粋に野球を楽しめる気がしないんだ。


「じゃあ、俺ら部活あるから行くね。転校生、また明日な」

「転校生じゃなくて山本。あ、私は清水咲(しみずさき)。また明日ね」


廊下を歩いていく山瀬を追いかけるようにして、清水さんも教室を出て行った。