一花はまた目に涙をいっぱいためている。

一花の言う通り、俺も一花も今の時期に転校するのが大変なのは同じ。

受験のこともあるけど、友達関係の不安が大きい。


「分かった」


父さんと母さんの言葉がようやく少し理解できて、俺は口を開いた。

これしか方法はないと思った。


「父さんが単身赴任する選択肢はないってことだよね?」

「それは・・・」


母さんが濁したけど、そんなことは分かり切っている。

息子の俺が言うのは悪いかもしれないけど、母さんは弱い。

多分、父さんと離れたら生きていけないと思う。


「一花、兄ちゃんと一緒に東京に行こう」

「え・・・」


一花の表情には“絶望”って言葉がぴったりだと思う。

ごめん。でも、これしかないと思った。

俺が東京行きを決めれば、一花も一緒に行かざるをえない。

俺はともかく、一花はまだ中学生。

なるべく両親と離れさせたくはない。