「兄ちゃ・・・」
「ん?」
妙に肩を落として歩いていると思ったら、顔を上げた一花の目には涙がいっぱい溜まっている。
「一花、太一が帰るまで・・・」
一花の後ろから、母さんが現れた。
母さんは今初めて俺が帰っているのに気付いた様子で、黙ってしまった。
何、この空気。
ただならぬ空気を感じて俺は頭をフル回転させるけど、全然分からない。
「太一、話があるから来てくれる?」
「え、うん」
「一花、もう一度話を聞いて」
母さんは一花にも話しかけたけど、一花は何も言わずに階段を上がって部屋に入ってしまった。
母さんの後に続いてリビングに入ると、父さんもいた。
まだお盆休みには入っていないはずなのに。
「あ、太一、おかえり」
「ただいま。何?話って」
床にエナメルバッグを置き、いつもの場所、父さんの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ごめん、太一。父さん、転勤になった」