「あ、ありがとう。山本くん、用事なかった?」
驚きからか、髙橋は声を出すのもやっとな様子。
「え、俺?全然大丈夫」
「そっか、よかった。あ、あのね・・・」
髙橋の顔が少しずつ赤くなっているように見える。
そして、黙ってしまった。
何、この空気。
今まで、髙橋との間に感じたことのない空気だ。
今日ってバレンタインデーだよな。
ちょっと期待してしまうんだけど。
「髙橋?」
沈黙に耐えられなくなり、名前を呼ぶ。
すると、目の前に勢いよく紙袋が現れた。
「これ・・・」
「あ、あのね、いつもありがとう、の気持ち」
え、『ありがとう』?
想像してた言葉と違うけど、自分がどんな言葉を想像していたのかも分からない。
「え、俺何かしたっけ」
「してくれてるよ。声掛けてくれたり、勉強会に誘ってくれたり、あと、行けなかったけど初詣にも誘ってくれて、あと、前髪・・・」
「ぶっ」
ものすごく必死に、珍しく早口で話す髙橋を見て、思わず吹き出してしまった。
髙橋は話すのをやめて、顔を真っ赤にしている。