呆れ顔の智哉と別れ、来た道を引き返す。

まだ教室だって瀬尾は言ってたけど、図書館に行った可能性もある訳で。

入れ違いになったらいけないと思い、俺の足は少しずつ速くなる。

息が切れかけたところで教室の前までたどり着き、中を見る。


「どした?」


中で勉強してた男子に話しかけられ、『髙橋、見た?』と訊く。


「髙橋さんなら、さっきはテラスにいたけど」


今度は女子が教えてくれた。


「サンキュ」


手短にお礼を言い、階段の近くにあるテラスへと向かう。

テーブルはなく、ベンチと生徒の作品が数点展示されている空間。

そこに、一人ぽつんと髙橋はいた。


「よかった、いた」


俺の声で、じっと床を見ていた髙橋が顔を上げた。

俺を見て少し目をきょろきょろさせている。

そっか、急に俺が現れたからびっくりしたのか。


「これ、瀬尾に頼まれて。入れ違いになったらと思って、急いだ」


瀬尾に渡された本を差し出す。

髙橋は、両手で丁寧に受け取った。

こういう所作が、きれいなんだよな。

こういうところが好きになったんだ。