あと5分くらいで家に着くって頃、見慣れた後ろ姿が見えた。


「一花、おかえり」


中学の制服を着た一花。

帰りが俺と同じくらいになるの、珍しいな。


「あ、ただいま。兄ちゃんもおかえり」


最近、俺への反抗期は終わりへと近づいてきているらしい。


「ただいま。遅かったんだね」


俺は自転車を降りて押し始めた。


「うん、探し物してたから」

「そっか。見つかった?」

「ううん、見つからなかった」


一花、泣いてる?

そう思ってちらっと顔を見てみたけど、涙は流れてなさそう。

でも、口元に力を入れて泣くのを我慢してるように見える。


「一花、何がなくなったの?」

「大丈夫」

「何がなくなったの?」

「大丈夫だって」


一花の声は震えていて、下瞼で抱えきれなくなった涙が一粒、また一粒と地面に落ちる。


「ちょっと来て」


俺は一花の腕を引いて、近くにある小さな公園に入り、ベンチに一花を座らせた。