「へー、瀬尾ってピアノ弾けるんだ」
「そうなの。すごいよね」
合唱コンクールの話をしていることはすぐに分かった。
だけど、そのことよりも、『湊』って呼ぶんだ。
じゃあ、井上も『那奈』って呼ぶのかな。
ちょっとうらやましいって思ってしまう俺って、変?
「何してるの?」
髙橋と井上が立ち去った後もその場に立ち尽くしていた俺は、瀬尾が目の前に立つまで気が付かなかった。
「いや、別に」
「別にじゃないでしょ」
「いや、別に」
「もー、まあいいけど。帰らないの?」
俺のことを気にしているのかしていないのか、瀬尾はさっさと靴を履き替えて出て行こうとする。
俺も、何となく慌てて瀬尾を追いかける。
自転車置き場に着いても、既に髙橋と井上の姿はなかった。
付き合ってるのかな。
だとしたら、やっぱりちょっと嫌だな。