母さんは満足そうに台所に戻っていった。
いやいや、何で部活終わって19時過ぎに帰ってくる俺に頼むの?
昼間に私に行っとけばいいじゃん。
「嫌ならそう言えばいいじゃん」
階段に足をかけたまま突っ立っている俺にぼそりと言いながら一花が横を通った。
いや、嫌って訳じゃないんだけどさ。
ってか、一花のその言い方が一番嫌なんだけど。
俺はエナメルバッグだけを玄関に残し、さっき閉めたばかりの玄関の鍵を開けて外に出た。
まだまだ春。
ゴールデンウィーク中の夜はまだちょっと肌寒い。
「山本?」
瀬尾の家の前に着くと、ちょうど瀬尾が帰ってきた。
ちょうどよかった。
「おー。これ、母さんからおばさんに。俺のお下がり」
「いやいや、隼人に、でしょ」
瀬尾は俺に突っ込みながら紙袋を受け取った。
あ、そっか。
言葉のチョイス間違えた。