「今日はどうだった?」
これは、毎日のルーティン。
私の表情が落ち込んでいるとかじゃなくて、うれしかったことも辛かったことも、お父さんに報告するようにしてる。
でも、言いたくないことは言わないのがお父さんとの約束。
「んー・・・湊って分かる?」
「井上さんとこの?」
そうだった。この辺の人たちは、みんな顔見知りなんだった。
「そう。湊にね、吹部に誘われた」
吹奏楽部、略して“吹部”。
「そっか、湊くんは吹奏楽部に入ったんだ。それで、断ったの?」
「ううん、濁した。そしたら、湊の方が、お母さんに何て言われるか分からないもんねって」
「そっか・・・。濁したってことは、那奈は吹部に入りたいんだよね?」
お父さんのこういうところ、すごいと思う。
私のちょっとした言葉のチョイスで、私が考えていることを見抜いてしまう。
「うん。でも・・・お母さんは、私が部活に入ったら勉強しなくなるって思うよね?」
「どうだろう。でも、中学のときはコーラス部に入ってても勉強の手は抜かなかったから、説得はできると思うよ」