「おーい。盛り上がってるとこ悪いけど、待ってるぞ」


音楽室に入ってきた湊が親指を立てて示した先には、他のパートの1年生女子の姿。

どうやら、私と桜ちゃんが盛り上がりすぎて、入れなかった様子。


「あ、ごめん!じゃあ、那奈先輩、さようなら」

「うん。ばいばい」


ちょうど楽器を片付け終わり、桜ちゃんは楽譜ファイルを鞄に入れると友達のところに駆けていき、音楽室から出ていった。


「大丈夫?」

「何が?」


私も楽譜ファイルを鞄に入れながら湊と会話をする。


「太一のこと」

「え?」


私は誤魔化すように笑い、一度湊に向けた視線をそらす。


「連絡は?」

「ないよ。する理由もないし」


私が鞄を肩に掛けるのを確認して、湊は歩き出す。

廊下に出ると、後輩たちが『さようなら』と挨拶をしてくれるから、それに応えながら廊下を進み、階段を降りる。