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「ただいまー」


夜7時過ぎ、遠くに聞こえたのはお父さんの声。

この声を聴くと、私の緊張は少しだけ緩む。


「おー、世那。ただいま」

「おかえり。ねえ、後ででいいから、算数教えて」


静かだと思ったら、算数の問題と格闘してたんだ。

廊下で交わされるお父さんと世那の会話に、心がほっこりする。


「いいぞ。後でな」

「うん、ありがとう」


そのあとすぐに、“トントントン”と私の部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「はーい」

「那奈、ただいま。お、本読んでたのか」


お父さんは声を潜めて、私に話しかける。

勉強するふりして本を読んでることは、お母さんには内緒。

お父さんと私だけが知ってることだから。


「うん。今日借りてきたの」

「いいなあ。今度父さんにも教えて。それで・・・」


お父さんは少しだけ廊下を振り返り、私の部屋に足を踏み入れ、少しの隙間を残してドアを閉めた。