「ただいまー」
ドアを開けると、リビングの方からバダバタと聞こえる足音。
そして「穂波ちゃんおかえりー」という言葉と共に日向が走ってきた。
保育園から帰ってきたばかりなのだろうか。
まだ制服を着たまま、首元には黄色い帽子がぶら下がっている。
「日向、ぎゅっーてさせて」
私が日向の目線に合わせそう尋ねると「いいよ!」と元気いっぱいの返事が返ってくる。
「ありがと、日向」
私がぎゅっと抱きしめると、力いっぱい私を抱きしめ返してくれる柔らかな腕。
私よりも高い体温に、おひさまの匂い。
目を瞑るとそれをより強く感じる。
「はぁ、癒やされる」
同じ年下でも今日会った男とは大違いだ。
……って、なんで今、九条渚のことを思い出すのだろう。
「先輩、そんなにストレス溜め込んでるの?」
……アイツの顔を一瞬でも思い浮かべてしまったせいか、そんな幻聴が聞こえる。
かわいい日向を抱きしめてるっていうのに、邪魔をしないでほしい。
「せーんぱーい」
だから、もう出てこないでってば。